現在、『顧客体験の向上』を軸に、テクノロジーを活用し差別化をはかる企業が世界規模で急増しています。そんな中、もっとも注目されているテーマのひとつが、多様化する消費者のライフスタイルや価値観に合わせた『パーソナライゼーション』の実現です。例えば、『パーソナライゼーション』の例として、インターネットでの個々レベルに合わせた広告配信や、タピオカミルクティのタピオカの量や甘さの調節ができることなどが挙げられます。そして、それらにおいてのキーポイントは「どこまで消費者一人一人の関心や好みに合わせたサービスを提供できるか」です。近年は、AIによる消費者データの解析やIoTの普及が急速に進む中、様々なスタートアップ企業がより洗練されたパーソナライゼーションを追求すべく挑戦を続けています。今回、本記事ではその中で「食」に焦点を絞り、フードテック系企業の最先端のパーソナライゼーション手法を紹介したいと思います。

ストレスレベルを読み取るIoTティーポット『Teplo』

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写真出典 :Teplo

まず最初にご紹介するのが、2019年にラスベガスで行われた世界最大の家電技術見本市である『CES』にも出展したIoTティーポット『Teplo(テプロ)』です。Teploを開発した「Load&Road社」は、日本人とインド人が共同設立したスタートアップ企業で、2019年、春のクラウドファンディングにおいては65,595ドル(約700万円)の資金調達にも成功しています。このティーポットは、センサー部分に指を当てると体温と心拍数が計測されて、気温や湿度、明るさや静けさといった環境条件も測定した上で、ユーザーにとって最適なお茶を淹れることができます。

例えば、ユーザーがストレスを感じているような場合は、低温で癒し効果があると言われる甘みを持たせたお茶、逆に疲れている場合は、高温でカフェイン多めと言ったように、個人によるお茶の好みだけではなく、このような「ストレスレベル」が考慮されたお茶を淹れることが可能になっています。また、計測後は、ユーザーが自分の好みである茶葉を選び、アプリによってその茶葉に最適な抽出方法を選んだり、自分の好みに合わせた温度や抽出時間を設定することもできます。さらに、飲んだお茶に関するデータは蓄積され、そのデータに基づいたレコメンドも表示されます。

例えば、玉露や紅茶、ハーブティーにおいて、それぞれの適温温度や抽出時間も異なります。しかし、Teploがあればお茶の知識がない人でも、本格的なお茶をプライベート空間で手軽に楽しむことができるようになっているのです。創始者のSoni氏のインタビューで「全く同じ人間なんていないんだから、(それと同様に)同じお茶というものもないんだよ」と答えています。Teploはまさにそれぞれのユーザーが好むお茶や飲み方、そして、飲む時の体調や環境をもパーソナライズ化したIoTティーポットとなっているのです。今、アメリカではお茶ファンを中心にして、今後の成長が期待されています。

腸内細菌の嗜好をパーソナライズしてくれる『DayTwo』のサービスとは?

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写真出典:DayTwo

次にご紹介するのが、個人の腸内フローラを解析して最適な食材やメニューをレコメンドしてくれるという『DayTwo』のサービスです。ここでは、年齢や性別と言ったような一般的なユーザー情報だけではなく、それぞれ個人における「腸内細菌の嗜好」をも把握する最先端の「食のパーソナライゼーション」化が進められています。単純に食を楽しむこと以外に、『食は薬(Food as Medicine)』という観点から健康管理や食事療法のパーソナライズ化が腸内細菌の遺伝子レベルで行われています。

DayTwoは、イスラエルとアメリカを拠点としたスタートアップ企業。「Mayo Clinic」や「ジョンソン&ジョンソン」などからも資金提供を受けており、2019年6月までの資金調達額は4800万ドル(約50億円)にものぼっています。まず、このサービスを利用するためには、最初にDayTwoに登録して「検便用キット」を受け取って、そのサンプルを送ります。すると約2ヶ月後には、自分の腸内細菌と様々な食材メニューなどとの相性が表示されたアプリが携帯に届きます。表示されている食材やメニューは「A+~C-」でランク付けがされており、アプリ画面のランクを参考にしながら自分にあった食事内容を選ぶことが可能になっています。

あるユーザーの例では、このテストをしたことによって『自分の腸内細菌』は、バナナ(C+)よりはいちご(A+)の方が、そして、プレッツェル(C-)よりもチョコレードブラウニー(A-)の方が良いということが分かったとしています。

DayTwoの話によれば、例えば同じ炭水化物や野菜であっても、個人の持つ腸内細菌によって「血糖値に及ぼす影響」がかなり異なるため、『野菜を多くして、炭水化物を少なく』と言った誰にでも当てはまるような、一般的な食事療法には「大きな限界がある」としています。このDayTwoで行われている腸内細菌の遺伝子分析に基づいた「食のパーソナライズ化」は、近い将来においてメタボや肥満、糖尿病などを改善するために重要な役割を果たすことになるであろうと大きく注目されています。

まとめ

今回は「食のパーソナライゼーション」にテーマを絞り、2つの事例についてご紹介しました。この両者においては共通点があり、どちらも食のパーソナライズ化でありながらも、特に個人の体調や健康に関するデータを活用した「ウェルネスのパーソナライゼーション」とも連動していることが言えます。自分の好きな食事や飲み物を楽しみながら、それと併せて健康管理もできるというものになっています。今後も「パーソナライゼーション」をキーワードに、業種の垣根を超えたIoTの開発がより充実した「顧客体験」をうみ出していくことになるかもしれません。

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