マーケティングの基礎知識として語られる「マーケティングミックス(4P)」。実は説明を求められてもうまく説明できない……というマーケターの方もいるのでは? 今回は、この「マーケティングミックス(4P)」のマーケティングにおける位置付けや意味についてお伝えします。まずはマーケティングの全体像を「ホリスティック・マーケティング」のコンセプトを用いて解説。続けてマーケティングミックスについて説明したうえで、事例を紹介します。
ホリスティック・マーケティングとは
「ホリスティック」は「全体的」「包括的」といった意味を持ち、「ホリスティック教育」「ホリスティック医学」といった言葉に使われています。「ホリスティック・マーケティング」もマーケティングの全体像を把握するという発想に基づいたもので、そのなかで行われる活動の相互の関係性を認識しながらマーケティングを進めることを意味します。近代マーケティングの父コトラーの著書、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』では、ホリスティック・マーケティングのコンセプトを次のように説明しています。
「マーケティングのプログラム、プロセス、活動それぞれの幅と相互依存性を認識した上で、マーケティングのプログラム、プロセス、活動を開発し設計し実行すること」
このホリスティック・マーケティングは4つの構成要素から成り立っており、そのなかのひとつの要素である「統合型マーケティング」においてマーケティングミックス(4P)の発想が重要になります。まずはその4つの構成要素を見てみましょう。
ホリスティック・マーケティングの4つの構成要素
ホリスティック・マーケティングは以下の4つの構成要素から成ります。
- ●リレーションシップ・マーケティング
取引をスタートし、それを維持していくために主な関係者と相互に満足のいく長期的な関係を築くことです。関係者には、顧客や供給業者、流通業者、その他のマーケティング・パートナーが含まれます。 - ●統合型マーケティング
消費者に向けて価値を生み出し、それを伝え、提供するための完全に統合されたマーティング・プログラムを作って実行するマーケティングのことです。ここでマーケティングミックス(4P)をツールとして使います。 - ●インターナル・マーケティング
組織の内部に向けての活動です。組織に属するすべての人、なかでも特に経営幹部に適切なマーケティング原理を理解させることを意味します。 - ●社会的責任マーケティング
自社の利害のみを考慮するのではなく、より広い視点から問題意識を持ち、マーケティングを倫理、環境、法、社会的文脈のなかで理解することを意味します。例として、マクドナルドのドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズへの寄付や、エイボン・プロダクツ・乳がん撲滅のためのウォーキング大会などが挙げられます。
企業がマーケティング活動を行う際には、この4つの構成要素のそれぞれを十分に理解し、相互の関係性を認識しながら、総合的なマーケティング計画を立てていく必要があるでしょう。マーケティングミックス(4P)もこのホリスティック・マーケティングの計画のなかで機能させていかなければなりません。4Pだけを切り取ってマーケティング計画を立ててしまうと、ステークホルダーと良好な関係性が築けなかったり、計画を実行するスタッフの理解が得られなかったり、社会的責任を果たせなかったりするからです。それでは、4Pとは実際にどのようなものを指すかを具体的に見ていきましょう。
マーケティングミックス(4P)とは何か
ホリスティック・マーケティングの4要素のひとつ「統合型マーケティング」では、ひとつのマーケティング活動を設計し実行するにあたってほかのすべての活動を念頭に行い、互いに強化し合うコミュニケーション・オプションを選択することが重要です。この統合型マーケティングの目的を追求するためのツールとして用いるのがマーケティングミックス(4P)です。
マーケティングミックス(4P)はProduct(何を)、Price(いくらで)、Promotion(どうやって)、Place(どこで)を指し、製品開発から販売までの流れをトータルで整理したものです。『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』では、4Pの要素(変数)として以下の例を挙げています。
- ・Product(製品)
製品の多様性、品質、デザイン、特徴、ブランド名、パッケージ、サイズ、サービス、保証、返品 - ・Price(価格)
標準価格、値引き、アロウワンス、支払期限、信用取引条件 - ・Promotion(プロモーション)
販売促進、広告、セールス・フォース、パブリック・リレーションズ、ダイレクト・マーケティング - ・Place(流通)
チャネル、流通範囲、品揃え、立地、在庫、輸送
マーケティング計画を立てる際には、これらの要素を製品の性質やターゲットなどに合わせて変えていきます。もちろん、上に挙げたものはあくまで例であって、これらのほかにも4Pの要素となり得るものはあります。自社のマーケティングにおいて4Pの要素となるものをすべて洗い出し、それぞれについて綿密なプランを立てる必要があるでしょう。
マーケティングで使われるもうひとつのフレームワーク「4C」は、4Pを顧客目線で見たものです。4Cとは、「顧客ソリューション:Customer Solution」、「顧客コスト:Customer Cost」、「利便性:Convenience」、「コミュニケーション:Communication」を指します。4Pのフレームワークでマーケティングプランを考える際にはこの「顧客目線」が重要です。昨今では特に顧客とのコミュニケーションや顧客の利便性が重視されています。One to OneマーケティングやSNSマーケティング、O2O、オムニチャネルといった手法を必要に応じて組み合わせながら、顧客とのコミュニケーションや顧客の利便性に配慮した戦略を練る必要があるでしょう。
マーケティングミックスの成功事例
それでは、実際にマーケティングミックス戦略を成功させている企業の事例を見てみましょう。
「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」(任天堂)
任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」は、2017年3月の発売以来、好調な売り上げを記録。9カ月で国内販売数が240万以上に達しました。スマホゲームがはやるなか、これだけの販売台数に至ったのはマーケティングミックスが成功したためだと評価されています。人気コンテンツが含まれるうえに携帯性や起動の快適性に優れるなど魅力的な製品(Product)、競合製品よりも手ごろな価格設定(Price)、割引を防ぐための出荷台数管理(Place)、SNSや動画配信による時代に合ったプロモーション(Promotion)の組み合わせがうまく機能した例だと言えるでしょう。
「スタアバックス珈琲」(スターバックス)
スターバックス コーヒージャパンは、2019年5月から6月にかけて「スタアバックス珈琲」という期間限定のプロモーションを実施し、成功を収めました。過去をリスペクトするという発想からレトロを取り入れた企画で、プリンアラモードをアレンジした限定商品を販売したり、定番の「コールドブリュー コーヒー」を「水出し珈琲」と名前を変えたりするなど、商品(Product)に工夫が見られました。価格(Price)を見ると、例えば「プリン アラモード フラペチーノ」は620円(税別)で高すぎず安すぎない、ちょうどよい設定。場所(Place)は、「京都宇治平等院表参道店」や「太宰府天満宮表参道店」など日本の各地域の象徴となるような「ブランニューレトロ」を感じられる店舗に限定しており、看板もレトロ調のものを使用するなどプロモーション(Promotion)にもこだわりが感じられました。スターバックスが得意とする「体験を売る」が功を奏した4P成功例と言えるでしょう。
事例から学んだことを4P戦略に活かそう
今回ご紹介した以外にも、さまざまなマーケティングミックスの事例を学ぶことで、自社に応用できそうなパターンが見えてくるでしょう。ぜひ多くの事例を参考にしながら4P戦略を立ててみてください。