Hondaはオートバイ「スーパーカブ」が60周年を迎えた2018年1月から、「Me and Honda」をテーマにPRをスタートしました。そこには、単にプロダクト訴求ではないPRへのこだわりが隠されていました。その具体的なPR手法と、そこに隠された想いを広報担当者にインタビューしご紹介します。
「新聞配達員への手紙」を打ち出した新聞広告によるPR
Hondaは、2018年1月より、普段からスーパーカブに乗っている学生、郵便配達員、新聞配達員を取り上げながら新聞やWebなどあらゆるメディアでPRを実践してきました。シリーズもので進められているこの企画の第三弾として、2018年10月21日に新聞広告に掲出したのが、新聞配達員への手紙です。
真っ赤な下地に白文字で書かれているのは、スーパーカブに乗って配達する新聞配達員へ向けた、温かみのあるささやかなメッセージでした。また特設Webサイトでは、スーパーカブに乗る配達中の新聞配達員の写真と共に「雨の日も、風の日も、いつもありがとう。」というメッセージが添えられると共に、そのページ内では、感謝の気持ちを伝える文章がつづられました。
プロダクトのPRではなく、あくまで「企業PR」の一環
一見、スーパーカブを使用している職業をピックアップして、ストーリー仕立てで間接的にスーパーカブをPRしているように思えますが、実際の意図は少し異なるそうです。
「今回は、スーパーカブのPRを目的にはしておらず、あくまで『Me and Honda』という企業PRの一環で行っております。『Me and Honda』とは、プロダクトでなく『Me』であるお客様や、関わる方々を主と置くことを意味します。60年という長い時間をかけてその文化を作ってくれたのは、スーパーカブを毎日乗り続けてくれた職業の方々。そうした方々をピックアップするのは、プロジェクトとして至極当然のことであると思い、実施しました。ストーリー仕立てであるのも、感謝の気持ちを表現する上で自然と決まっていったと思います。商品広告でなく企業広告であることから、テレビCMなどの一般的なマスメディア(媒体)戦略を採るよりも、話題性を追求したり、各エピソードと関連性のある形による仕掛けを行ったりしていきたいと考えました」
掲載メディアはどう決めた?
今回の企業PRを実施するに当たり、なぜ新聞広告を選んだのでしょうか。そもそも、新聞購読者とスーパーカブのターゲットとはマッチするのかということも気になります。
「新聞配達員の方への企画であったため、新聞を使いたいと思いました。先にも述べた通り、あくまで企業PRですから、ターゲットについても『新聞広告という媒体だから、新聞購読者だけを狙った』ということではありません。スーパーカブは日本に在住の方であれば、老若男女多くの方にご認識いただいているモデルであり、バイクに乗る、乗らない、購入する、しないを問わず、日常的に風景に溶け込んでいるものとして、どんな方にもエピソードがあると思っています。例えば、試験前の徹夜時の明け方の新聞配達の音や、年賀状が家に来たかどうかを確認する音などは多くの方の記憶に残っているのではないでしょうか。ですから、この手紙に対して共感してくれる方はたくさんいると思っています。実際に乗る方だけでなく、スーパーカブを認識いただいているすべての方々に届いてほしいという想いがあり、新聞を選びました」
Hondaが「Me」にこだわる理由
スーパーカブ50・60周年アニバーサリー(マグナレッド)
先にも述べられた、スーパーカブ60周年の企業PRのテーマ「Me and Honda」の「Me」とは「Hondaを使う人、つくる人、楽しんでいる人」のことを指すのだそうです。この「Me」には特に深いこだわりがあるようです。
「Hondaユーザーはもちろんですが、Hondaをつくる社員、レースに励む選手、またそれを観戦して応援してくださるファンの方など、さまざまなカタチでHondaと関わってくださる方を“Me”としています」
そして、今回の企業PRについても、このテーマの深いこだわりが反映されているといいます。
「ブランドというのは、人々の記憶の積み重ねです。メーカーはプロダクトを作ることはできますが、ブランドは自分たちだけで作ることはできません。Hondaのプロダクトには必ず『想い』を込めています。それは決して自己利益ではなく、誰かの役に立ちたいということです。その想いをちゃんと伝えることが大切だと思っています。だからといって、それを誇張するのではなく、“等身大で表現する”ということに、かなりこだわりを持っていると思います」
プロダクト制作時に込めた想いを、改めてPRの場で“ちゃんと伝える”。しかし、それはあくまで“等身大”。企業PRとは何なのか、そして伝える手段の一つを学べる事例といえそうです。
PRについての詳しい記事はこちらをご覧ください。
今さら聞けない! プロモーションとPRの違いとは?
取材協力
Honda
スーパーカブ生誕60周年・生産累計1億台記念サイト
https://www.honda.co.jp/supercub-anniv/