2018年6月に開催された本セミナーでは、購買行動とともに大きく変化する消費者インサイトに基づき、購買体験の価値を最大化させる方法や、効果的なプロモーション施策の考え方を、ケーススタディを交えてご紹介しました。
本記事では資生堂ジャパン株式会社 EC事業推進部長 徳丸 健太郎 さまによる講演をご紹介します。
【この記事は連載です】
リアル×デジタル時代に見据えるべき購買行動パターンとインサイト
市場と消費の変化に合わせて進化する、新しい顧客接点
資生堂の取組みについて
今日は、我々が取り組んでいるイニシアチブを、いくつかご説明したいと思います。
私たちが2020年に向けて取り組んでいるのは、生活者にとっていかに重要な存在になれるかということです。
今、ユーザーの生活はデジタル中心になっています。
イーコマース(以下、EC)の世界も、どんどん生活の中に入ってきています。我々はその中で存在感を増していきたいと思っています。そのために、テクノロジーを含めたユーザビリティーをどう高めていくかについて取り組んでいます。
私は、EC事業推進部という部署の責任者をしています。
本日はECについて、どのように取り組んでいるかを簡単にご説明します。
「3つのEC」でアプローチ
私たちは今、「3つのEC」で市場にアプローチしています。
昨年から資生堂グループは、EC市場トップシェアとなっています。ビジネスに参入したのは2012年くらいからなので、後発のメーカーですが、徐々にシェアを広げてトップに上り詰めたということになります。
3つのECをどう使い分けているかですが、まず一つめに「ブランド.com」があります。
これは、いわゆる単独ブランドに集中したECです。
ここで重要なのは、当たり前ですが、ブランドが作っている世界観を、リアルとEC、Webが別々ではなく、統一された体験としていかに生活者に提供できるかということです。
大きくリーチを広げるというよりは、世界観を深め、特別な体験を与えることを目的にしています。
二つめに、「ワタシプラス」という資生堂ジャパンが展開しているECのプラットフォームがあります。
これは、国内の資生堂顧客データを集約しています。単独のブランドでサービスを提供するというより、人を軸にブランドを横断した最適なソリューションを提供することをめざしているのが特徴です。
三つめに、Amazonなどの企業プラットフォームにも展開しています。
自社の持っているアセットだけでは、消費者のすべての生活に満足を与えることはできないからです。Amazonなどの専業プラットフォームは圧倒的に便利です。
利便性や合理性を重視する生活者の方(フェアプレイヤー)にはこのような形でブランド体験をしてもらっています。
この3つのECの形に共通する要素としては、「たまたま訪れる」ということがないという点です。
広告などで思わずクリックしたことはあるかもしれませんが、Webの世界は「検索」をしないと求める答えは出てきません。
そのため、ベースとなるユーザーの検索にどれだけきちんとフィットさせられるか、を基本においています。
例えばAmazonで検索する際も、「ファンデーション」とユーザーが検索したら、私たちの商品が必ず表示されるようになっていないといけません。ベーシックで当たり前なことですが、そこをきちんとやることを心がけています。
次に、パソナライゼーションです。
これはまだまだ不足している部分ですが、データを軸に、いかに一人ひとりのお客さまに合った情報の開発、コミュニケーションができるかということです。つまり、最適なタイミング、最適なメディアでアプローチをしていくということです。
最適なメディアというのは、主にオウンドメディアを指しますが、マーケティングオートメーション(MA)ツールも導入しているので、アプローチする手法は、オウンドメディアやメールなど、総合的なコミュニケーションを基本として考えています。
ブランドの特性に応じたプラットフォームの使い分け
資生堂には多くのブランドがあります。
例えば「クレド・ポー・ボーテ」というトップブランドでは、クリームが6万円くらいします。
一方、「専科」は洗顔フォームが398円です。どちらも資生堂で展開しているブランドですが、購買行動は明らかに異なります。
本当にお金を持っている人は違いますが、6万円のクリームを何かの買い物のついでに買うことはないでしょう。
逆に、300円台の洗顔フォームを、わざわざブランドサイトで買うことも少ないと思います。ドラッグストアで、日用品の買い物ついでに洗顔も、ということが多いのではないでしょうか。
このように、ブランドによって求められるものや、タイミングが違います。
なぜ私たちが一つのプラットフォームで展開しないのかというと、ブランドの特性に応じてプラットフォームを使い分けているからです。
プレステージブランドは、希少性も価値になります。
わざわざ来店してもらい、特別な体験を提供できるからこそ、ユーザーの満足度を高めることができます。
一方、コスメティックブランド、当社でいう「エリクシール」や「マキアージュ」というブランド群です。「マキアージュ」というブランドは口紅が約3,000円です。
この価格帯は決して安くはないと思います。三桁の価格が一番のボリュームゾーンですが、3,000円~4,000円の価格帯も、ドラッグストアなどのセルフショップで売られているのが日本の特徴です。
このブランド群がユニークなのは、場所を選ばばないところです。
例えば、「エリクシール」は、ドラッグストアや一部のホームセンター、GMSで売っています。そこにはカウンターがあり、私たちのビューティーコンサルタントのカウンセリングで売られています。
つまり、コスメティックブランドは、売り場に応じて価値を作り、フィットさせているということです。
もちろんブランドの本質的な価値は変わりませんが、それぞれの売り場に応じた打ち出し方をしていて、同じブランドでも、ECの中ではイーコマースに最適化された作戦を取りながらプロモーションを行っています。
逆にプレステージは一貫しています。
ECと店舗が別々のことをしているわけではありません。
コスメティックブランドは、チャネルごとにいろいろな面を見せることでマーケットが広がっていきます。ただし、ブランドの本質的な部分は変えないことが重要です。
パーソナルケアブランドのカテゴリは、日用品ゾーンです。
そのためトラフィックが多いところに、いかにその面をとるかということが勝負です。
主戦場はAmazonや楽天など至るところになります。
「ブランド.com」は、グローバル型のブランドとして展開しています。
どのブランドも、日本中心、グローバル中心というように、ブランドで分かれています。
例えば「NARS」というブランドは、アメリカにブランドフォルダーの機能があり、世界各国で販売しています。
このブランドはこれまでオウンドのECがありませんでした。
取引先のECでは販売していましたが、「NARS」の世界観をしっかり伝えるためにも、「ワタシプラス」というモールに混ぜるのではなく、今後はオウンドのECで展開していくことになりました。
ただし、バックの仕組みは「ワタシプラス」の仕組みを使っています。
つまりインフラ部分、データ部分は資生堂が共通で押さえながら、フロントの体験はブランドに特化した構造になっています。
今後このようなECは、日本中で増えていくのではないかと考えています。
では「ワタシプラス」は何をめざしていくのか。
この中には多くの資生堂グループのブランドがあります。
今はプレステージのブランド群も混ざっていますが、ゆくゆくは先程の「NARS」のように、「ブランド.com」という形になっていくのではと思います。
今は、資生堂グループのさまざまなブランドを、ワンストップで体験できることが一つの価値だと考えています。
ブランド群とお客さまのベストなコミュニケーションを考えると、パーソナライゼーションがとても重要だと考えています。
「ワタシプラス」の後ろには、大きなデータベースがあります。それをもとに、できる限りその人にあったブランド、コミュニケーションを提供すること意識しています。
また、ビジネスの規模がどんどん大きくなっているので、システム面や物流面の強化も併せて進めています。
資生堂が取り組む最新プロモーション
最近のプロモーションをいくつかご紹介します。
例えばAmazonは、自分の欲しいものがすぐに見つかり、すぐに決済ができ、すぐに届くという、ミニマムなECの機能です。
しかしオウンドのECの場合、ミニマムな機能だけでは物足りないのではと考えています。私たちの企業、そしてブランドのファンを作ることが目的ですので、単純にモノを買って手もとに届けるという体験だけではなく、付加価値の部分を強化していきたいと考えています。
「ワタシプラス」のコンテンツである「ビューティジャーナル」は、コンテンツコマースのをめざしています。
モノというよりコトが中心です。
例えば「梅雨のジメジメで肌がべたつく…髪がまとまらない…」という悩みに対し、「化粧崩れせず、髪もキマっていたら、梅雨の季節も気分があがりますよね!」と情報をポジティブに提供することが役割だと思っています。
つまり単純に商品を並べるのではなく、“こうするとこんなに楽しくなりますよ”というコンテンツの提供を心がけています。その中で、このアイテムを使うとこういうメイクアップができる、というように、コト軸のコンテンツから新たな需要が得られないかトライしています。
この「ビューティジャーナル」は、毎月雑誌風の読み物を作っています。企業視点のメッセージだけでなく、消費者側の視点の内容を含めています。
もう一つ昨年から、「新しい購入体験」をECで作れないかと考えています。
ECのギフトです。
化粧品の新しい買い方として、友達からの贈り物や、母の日やクリスマスだけでなく、日常のコミュニケーションの中で化粧品が使われるようになっています。
自分のために買うというだけでなく、人にも贈りたくなるというのがポイントです。そういった購入体験を、ECの中で実行していきたいと思っています。
EC上で何ができるかというと、一つは相手に贈ったとき、パッケージが素敵だということです。
リアル店舗だと確認してから購入しますが、ECは家に届いて初めて開けます。そのとき素敵なラッピングがされていると気持ちがあがりますよね。商品がそのまま段ボールに入っているのではなく、素敵にラッピングするなど、もっと素敵な体験ができるギフトに取り組んでいます。Webからメッセージを同梱することも可能です。
データをベースに、最適な購買体験の提供をめざす
最後に、「@cosme」と「ワタシプラス」が共同で「Beauty&Co.」という新しい体験型Webサービスをリリースすることになりました。
最近はECでモノを買うことが主流になりつつあります。そのため、購入前の間口を広げることが重要だと思っています。
化粧品を買うとき、多くの人が「@cosme」という口コミサイトを見ています。
「Beauty&Co.」は、以前から資生堂色を出さずに、美容記事を中心としたニュースメディアとして独立展開していました。
それなりにニュース記事を見るユーザーもいましたが、これからは「@cosme」のプラットフォームで展開することで、「知る・試す・買う」というそれぞれの体験を提供し、新しいステージへ飛躍したいと考えています。
記事コンテンツは何のためにやるのかですが、これも一つの体験だと思います。
知る体験です。
例えば、「梅雨時期に崩れないヘアスタイル」を検索したとします。検索の結果、悩みに対するソリューションが出ます。プロダクトの話だけでなく、美容のHow toもあるかもしれません。そうした記事に基づいて実際に買えるという体験があるかもしれません。
しかし最近は、メディアと会話が離れていると感じます。「Beauty&Co.」も、記事を見るのと買うのとでは距離があります。
「記事を見る」「商品を買う」これ分かれさせるのではなく、まとめて体験させたいということで、「@cosme」 を運営するアイスタイルさんとこうした試みを始めることになりました。
お互いの目標は、ユーザーの満足度向上です。
単純に記事を見て終わるのではなく、その先のお客さんの体験をもっと素敵なものにすることをめざします。
実現するためのベースはデータです。
店舗とECが、お客さまに違ったことを伝えるのはよいことではありません。そのためには、ユーザーデータベースを各タッチポイントでしっかりとり、一カ所にまとめてつなぎこむ。そのうえで、それに沿ったコミュニケーションを行うべきだと考えています。今この動きはどんどん広がっています。
新しいタッチポイントも増えています。
例えばAIスピーカーが去年登場しましたが、このAIスピーカーがメインになったとき、ソリューションがないと選ばれなくなってしまいます。
Googleの検索プラットフォームが、Amazonのアレクサやグーグルホームがスタンダードになったとき、「私に合うファンデーションは何?」という質問に対する情報が何もなかったら、自社ブランドは選ばれなくなります。
データを統合して管理することで、一人のお客さまに対して最適な体験を提供できるような状況をめざしていけたらと思っています。
私たちがめざしているのは、生活者があらゆる場面で当社の商品と出会い、それをデータによってつなげ深めていくことです。
「生活者があらゆる生活場面で、好きなときに、好きなようにブランドを通じた化粧体験を楽しめることを実現しよう」というのが、資生堂ジャパンの共通のビジョンです。
私たちデジタル専門チームは、これをデータやテクノロジーを使って実現していこうと考えています。
【こちらの記事は連載です】
リアル×デジタル時代に見据えるべき購買行動パターンとインサイト
市場と消費の変化に合わせて進化する、新しい顧客接点