1994年、小さなインターネット書店としてシアトルで産声をあげたAmazon.com。送料無料プログラム「アマゾン・プライム」を全米で2005年に導入したのを皮切りに、クラウドプラットフォームの「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス、2006年)」、「電子書籍キンドル(2007年)」や「アマゾン・エコー(2014年)」など、ソフトとハードを連動させる統括的な商品やサービスを次々にリリースしました。その間、さまざまな企業の買収合併も意欲的に行い、自社商品のマーケティング力を着実に高めながら、現在では流通から出版まで手がける大企業に成長。また近年ではオフラインの実店舗営業に注力し、2015年には書店「Amazon Books」を、2016年にはキャッシュレス会計専用コンビニ「Amazon Go」を立ち上げました。2017年に一般公開が開始された「Amazon Go」はシアトル本社に1店舗しか存在しない希少性も相まって、時には入場規制がかかるほどの賑わいです。

キャッシュを持ち歩かない文化、スマホに親和性のある文化

アメリカは一般的にカード社会で、日常の買い物はクレジットやデビットカードを多用します。現金を持ち歩き危険な目に遭わないようにすること、万が一カードを紛失しても身に覚えのない課金に補償がきくこと(カードにより限度額や補償内容は異なる)が、その主な理由です。

またアメリカ人はスマートフォン(以下、スマホ)が大好き。日本のような高機能ガラケーが普及することがなかったこの国では、スマホがリリースされるや否や爆発的に広がり、現在では国民の約7割、およそ3億人が所有*するともいわれる巨大マーケットになりました。今では80代くらいの年配者でも遠くの州に住む孫と、フェイスタイムで会話するのはごくありふれた光景です。

スマホを持つと必然的にアプリを導入する機会が増えますが、ここでもアマゾンのマーケタビリティが威力を発揮し、オンラインショップにとどまらず、「AWS」連動のデジタルコンテンツまでが自社開発アプリで網羅。パソコンやタブレットを持たずともスマホ一つで日常生活が完結する環境を提供しています。そして「Amazon Go」も例外ではなく、店に入ってから出てくるまでのすべてをスマホアプリで管理してくれます。

「Amazon Go」のシステム

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「Amazon Go」を訪れるには、当然専用アプリのダウンロードが必要です。アプリ内で精算時に利用するクレジットカード情報を登録すると提示される「QRコード」をスキャンし、日本人にはなじみ深い自動改札のような入り口を通って入店。店内は1,800スクエアフィート(約167㎡)**と日本の典型的なコンビニより少々大きめのサイズで、売場面積の半分ほどを占める「Ready Eat(調理済み食品)」コーナーに目を奪われます。ここに並ぶサラダ、サンドウィッチ、お弁当などの豊富な「Ready Eat」商品の大半は、店内のキッチンで製造されています。

店内奥には、マグカップなど数種の「Amazon Go」オリジナル商品に加え、乳製品、冷凍食品や「Ready Made(調理キット)」、日用品などが並びます。「Ready Made」は二人前の具材と調味料が一つの箱に入った調理キットで、日替わりで常時4種類がラインアップされているようです。ビールやワインも置いてありました。

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「Amazon Go」ではショッピングカートやレジが存在せず、手に取った時と要らない商品を棚に戻す時、アプリ内のバーチャルカートが同期するシステムです。アプリに登録したクレジットカードが唯一の清算方法となり、買い物が終われば自動改札を逆方向に抜けて店外に出るだけ。そして、数分後には登録アドレス宛にレシートが送られてくるのです。

ちなみに「Amazon Go」に問い合わせてみたところ、現時点でアカウントに登録できるのはホログラムが付いているカードのみで、アマゾンギフトカードは利用不可とのことでした。

反応と課題

「Amazon Go」が一般公開されてから3カ月余りですが、利用者の反応は概ね良好です。IT関連企業が軒を並べるシアトルという街自体が新しいテクノロジーと相性が良い点、さらには先に述べた国民全体のスマホへの親和性が、評価の高さにつながったと考えられます。しかし、ネガティブな声がまったく聞こえない訳ではありません。夕方や週末などの『レジ待ち渋滞』から解放される喜びが聞こえる一方で、レジを通らず店外へ出る行為が「万引をしているような罪悪感と違和感を呼び起こす」という声も聞かれたのです。従来のスタイルを覆す「清算システム」ならではのフィードバックですが、消費者側の利用頻度が上がれば解消される「慣れ」の問題だけなのか、あるいは別のものか、多角的な分析が必要になってくるかもしれません。

また、そのほかにも「Amazon Go」アカウントに登録されるカード情報の「合法性」も課題となるところでしょう。盗難カードなどが勝手に使われ違法登録されたアカウントなど、企業コンプライアンスの手腕や対応が問われるところです。

これらの課題を尻目に第2、第3店舗はいつどこに出店か、という気の早い話題がアメリカ国内では飛び交っています。ロサンゼルスエリアが有力だと噂されているものの、広報は現在までこの件に関してはノーコメントを貫いています。現在進行中の「第二本社」の適所探しに合わせて「Amazon Go」出店をはかるのか、はたまた集客力の高い都市部を狙ってくるか。昨年買収を発表した中堅高級スーパー「ホールフーズマーケット(WFM)」と、「Amazon Go」のキャッシュレス処理の融合も見据えている、アマゾンの次の一手に期待がかかります。

アマゾンのブランディング力

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すでにオンラインショップとしては言わずもがなの集客力を誇るアマゾン。直販のみならず、外部セラーも積極的に取り込みながら成長してきましたが、規約基準を満たさなかったり、違法行為に手を染めるセラー達がいることもまた事実です。アマゾンは、そのようなセラー達に対し、プラットフォームから容赦なくはじき出すのが自社の責務であると認識しています。消費者の信頼を勝ち得るために高水準のサービスを維持する姿勢としては、非常に賢明かつ健全といえるでしょう。

さらに近年のアマゾンは、オンラインとオフラインのギャップを積極的に埋めようとしています。消費者に対して、今以上に包括的(総合商社的)なショッピング・エクスペリエンスを提供していく戦略に舵切りしています。「Amazon Books」や「ホールフーズマーケット」では、それまでオンラインのみで扱っていた「アマゾン・エコー」や「アレクサ」、「キンドル」などの店頭販売を開始し、消費者が実際の商品を手に取ることができる『ならでは』の強みを発揮しています。

企業理念である「Earth’s Most Customer-Centric Company(地球上でもっともお客様を大切にする企業)」を具現化している自負は、アマゾンのブランド力を押し上げる原動力でもあります。2018年初頭、JPモルガン・チェースの協力体制のもと銀行業界への参入を検討中と報じられた時のように、今後も世間をあっと驚かせたり楽しませたりしながら、あらゆる方面におけるサービスの戸口をどんどん広げ続けていくのかもしれません。

参照
*世界40カ国、主要OS・機種シェア状況【2017年9月】~インバウンドwebプロモーションにシェア状況データを生かす~ より抜粋
https://www.auncon.co.jp/corporate/2017/0927.html

** Amazon Goウェブサイトより抜粋
https://www.amazon.com/b?ie=UTF8&node=16008589011

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