マーケティングの世界にいると、聞かない日はない“プロモーション”と“PR”という言葉。

この言葉を同じものだと思っている人は……ごく稀にしかいないと思いますが、打合せ中にプロモーションやPRという言葉が飛び交うのに、みながきちんと理解しておらず、どこか話が噛み合わない、というケースは少なくありません。

今回は“今さら聞けない”プロモーションとPRの違いについてご紹介します。

マーケティングミックスとプロモーションミックス

プロモーションとPRの違いを説明する前に、まずはマーケティングの基本的な考え方となるマーケティングミックスについてご紹介します。

マーケティングを“4つのP”に分解した4Pはマーケティング戦略の全体像を捉えたもので、マーケティングの第一人者としても知られるコトラーも活用した考え方です。この4Pのことをマーケティングミックスともいいます。

4Pは

  • ●Product(何を)
  • ●Price(いくらで)
  • ●Promotion(どうやって)
  • ●Place(どこで)

を指し、製品開発から販売までの流れをトータルで整理したものです。

このうちのプロモーション(Promotion)の範囲はかなり広く、直接的なものから間接的なものまでを含めた総合的な販売側と顧客のコミュニケーション全般を指します。

そこで、さらにプロモーションを細かく分類して考えるのがプロモーションミックスです。

  • ●Advertising(広告)
  • ●Sales Promotion(販売促進)
  • ●Public Relations(パブリックリレーションズ)
  • ●Personal Selling(人的販売)

などに分類され、ここにPublic Relations=PRが登場します。

つまり、マーケティング全体のなかにプロモーションが含まれ、プロモーションのなかにPRが含まれるという構造になっています。

※マーケティングミックスについてはこちらの記事もご覧ください。
もう一度おさらい!「マーケティングミックス(4P)」とは何か?

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プロモーションはセールスプロモーションを指す場合が多い!?

実はプロモーションという言葉はPRを内包した本来の意味だけでなく、狭義で別の意味を持って使用されるケースも多くあります。

その際の狭義のプロモーションは、主にSales Promotion=SP(販促)を指します。PRに対し、より直接的な販売の促進を目的としたキャンペーンなどが当てはまり、SP(直接的)とPR(間接的)という形で使われるケースもあります。

次に、「プロモーション」のなかでもマーケティング・キャンペーンの中心となる「セールスプロモーション(SP)」についてお話しします。SPをどのように計画・実行し、効果を検証するのかを解説しますが、以下「プロモーション」という言葉は狭義の意味、すなわち「セールスプロモーション(販売促進)」の意味で使用します。

プロモーション戦略

「セールスプロモーション」(以下、「プロモーション」)とは、購買の直接的な動機づけのために行われる活動のことです。「広告」がブランドを好きになってもらうための活動であるのに対し、「プロモーション」は購買を決断してもらうための活動です。「広告」と「プロモーション」の2つの働きが補完し合うことで、商品やサービスが実際に「売れる」ことにつながります。

プロモーションの計画

プロモーションには戦略的な展開が必要になります。そのためにはまず入念な計画を立てなければなりません。

計画の流れとしては、まず企画を立て、それから実際の実施計画を立てることになります。

企画を立てる際には、まず市場情報を集め、分析し、戦略の課題を決めます。同時に、ターゲットや投入する商品アイテム、販売エリアやタイミングなどを絞る(あるいは広げる)といった作業を行います。

その後、プロモーションの詳細な実施計画を立てます。プロモーションの仕組みやテーマを作り、用いる手法やメディア・ツールの詳細、表現方法などを詰めていきます。

プロモーションの手法とツール

プロモーションの代表的な手法には次のようなものがあります。(出典:「プロモーション手法の計画と展開」日本プロモーショナル・マーケティング協会)

●プロモーションの手法

  1. 1.試用手法(試用機会の提供による誘導)

プロダクトサンプリング(試供品)、モニタリング(試用プラス意見)、デモンストレーション(実演)など。

  1. 2.プレミアム手法(特典の提供による誘導)

購入漏れなく型(封入プレミアム、応募漏れなく進呈プレミアム、etc.)、抽選型(応募抽選プレミアム、オープン懸賞プレミアム)など。

  1. 3.プライス手法(固定的な価格割引による誘導)

クーポン、リファンド(現金払い戻し)、オフラベル(特別価格品)、お試しサイズ品、増量パックなど。

  1. 4.制度手法(販売制度と一体化、サービス誘導)

ポイント付与、会員組織、サービス制度(メンテナンスサービス、無料配送、etc.)など。

これらの手法には、それぞれメリット・デメリットがあります。

例えば、「試用手法」は短期間のうちに購買を動機づけられるといったメリットがある一方、人手に頼ることが多く、説明にバラつきが出やすいというデメリットがあります。また、「プライス手法」は購買動機づけの確実性が高いといったメリットがある一方、頻発しやすく、ブランドの価値を損なうといったデメリットも。

こうしたメリット・デメリットをふまえ、対象となる商品アイテムをどのくらいの期間のうちに、どれほどのボリュームを売りたいのかといった点などから、最適な手法を選択します。そして、具体的にどんなツールを用いてプロモーションを行うかを決定していきます。

プロモーションに用いるツールは、次のようなものがあります。

(出典:「プロモーション・メディア&ツールの制作」日本プロモーショナル・マーケティング協会)

  • ≪プロモーションのツール≫
  1. 1.グラフィック系印刷物

グラフィックデザインは、平面上に表示される画像や文字、色彩などを介して情報、メッセージを伝達する手段です。

そのために使用される媒体はポスター、チラシ、リーフレット、パンフレット、カタログ、ステッカー、新聞・雑誌広告、商品のパッケージや包装紙のデザインやロゴマークなど多岐にわたります。

  1. 2.編集系印刷物

マニュアル、機関誌、カタログ、情報誌、会報誌などが挙げられます。中でもメンバーシップ誌と呼ばれる情報誌や会報誌は、お客さま(読者)の囲い込み(ファン化)と、自社のブランド力向上に適した、プッシュ型の情報発信手段です。

決まった誌面、ページに情報を落とし込むという制約のなかで、いかにターゲットに的確な情報を伝え効果を最大限にできるか、コンテンツクオリティの向上やセンスが求められます。

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  1. 3.ネット系ツール

現代では各企業のECサイトだけでなく、 ソーシャルメディア、スマートフォンサイト、スマートフォンアプリなど、顧客接点は多岐にわたります。

例えば、オンライン・オフラインを融合させたO2O・オムニチャネル戦略も、時代にあったネットプロモーションの一つです。Iotの進展で顧客情報が容易に入手できるようになり、これらの情報を利活用することで、顧客導線に合ったマス~Web~店頭のプロモーションを展開することが可能になります。

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  1. 4.購買時点メディア(POP広告)

通称POP広告(point of purchase広告の略)とも呼ばれ、販売店などの内外に展開される広告やディスプレー類の総称です。例えば、小売店販売員による口答のコミュニケーションや陳列什器におけるパネル、スタンド、ショーカード、ポスターなどが挙げられます。

POP広告は「サイレントセールスマン」と言われるように、最終購買段階である小売店頭に置いて、消費者に購買衝動を与えたり、いかに「買う動機づけをさせる」ことができるかが重要なポイントです。

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  1. 5.プロモーションイベント

イベント(催物)を開催してサービスの販売促進を図る手段です。

商品のプロモーションやテストマーケティング、ブランディングなどを主な目的としたポップアップストアや展示会など、リアルの場において、ただモノを売り買いするだけでなく、モノにまつわるストーリー(コト)を伝えることで、消費者とのコミュニケーションの深化を図ることができます。

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  1. 6.映像系ツール

商品の紹介や企業の紹介など、プロモーションに動画が活用されています。

動画によるプロモーションは情報伝達力が高く視覚的情報・聴覚的情報の2つの情報を使うことで品・サービスへの理解が深まり、より高い宣伝効果が期待できます。

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  1. 7.SPメディア

SPメディアとは、あらかじめ料金設定され、広告原稿素材の持ち込みで掲載が保障される、広告媒体としての事業形態を整えたマス媒体およびネット系ツール以外のすべての広告媒体のことを指します。

例えば車内広告、ネオンサイン、新聞折込などが挙げられます。

プロモーションを行う際は、上記の1~7やその他のツールをターゲット層や商品の特性などに合わせて選んでいくことになります。例えばターゲットが若年層であれば、3のネット系ツールや6の映像系ツールを選び、シニア層であれば、7の新聞折込や車内広告を選ぶなどして使い分けます。

近年は、これらのツールとともにSNSやVR、ARの技術などを活用したプロモーションもよく見られます。SNSは短期間のうちに情報を拡散できるというメリットがあり、VRやARは商品をよりリアルに感じてもらうことができるため、これらを用いることで、プロモーションの強化が可能になります。2件の実例をご紹介しましょう。

  • ●マーク ジェイコブス Tweet Shop
    2014年初頭、マーク ジェイコブスの香水「Daisy」のプロモーションイベントが実施されました。1月28日の「デイジーの日」にイベント告知があり、2月7日にニューヨークとロンドンでポップアップショップ「Tweet Shop」がオープン。イベントの内容は、「#MJDaisyChain」でツイッターやフェイスブックなどのSNSに投稿すると、このショップで商品がもらえるというもの。店舗でありながら、代金を支払わずに商品を手にすることができるという画期的な企画でした。
  • ●アウディ クワトロ quattro coaster
    2018年初頭にアウディがリリースしたデジタルコンテンツ。iOS向けアプリ「Audi quattro® coaster AR」を起動した状態でクワトロのCMがテレビで流れると、クワトロがテレビのスクリーンから飛び出してくるように見えます。よりリアルにクワトロを感じてもらうことで、購買の動機づけに結びつけやすくなるでしょう。

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プロモーションの効果測定

プロモーションを実施した後は、その結果を後のプロモーション活動に活かすために、効果を検証する必要があります。効果の測定方法にはさまざまなものがありますが、KPI(重要業績評価指標)を設定し、最終目標にどれくらい近づいているか、達成度合いを見る方法などが使われます。

一例として挙げられるのが、東京都および東京観光財団による、外国人の旅行者を増やすことを目的とした観光プロモーションです。このプロモーションでは、KPIの開発が行われており、活動の進み具合の定量的な計測を行うため、「観光地のキャッチコピーを認知している人の割合」「観光客向けのサービス・割安チケットを利用する人の割合」などがKPIとして設定されています。

また、前記『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』では、製造業者がプロモーション・プログラムを評価する方法として次の3つが挙げられています。

  1. 1.売上データ
    スキャナー販売データを使い、プロモーションを利用した人々のタイプ、プロモーション実施前に購入していたもの、プロモーション実施後の対象ブランドや他ブランドへの行動変化などを分析。
  1. 2.消費者調査
    プロモーションを記憶した消費者数、プロモーションに対する消費者の感想、利用者数、その後のブランド選択行動への影響力などの情報が得られる。
  1. 3.実験
    インセンティブ(動機づけ)の価値、期間、配布方法といった要因を変えた「実験」。例えば、消費者モニター世帯の半数にクーポンを配布してスキャナーデータを使えば、クーポンが購買に結び付くかどうか、購買のタイミングはいつになるかを追跡可能。

プロモーションの終了後は、こうした測定を通じてプロモーションの費用対効果や目標の達成度合いなどを検証し、次のプロモーションにおいて改善できる点を改善します。そのようにしてPDCAサイクルを回し、プロモーション活動を業績の向上に結びつけていきます。

PRの意味

プロモーションの違いをご説明しましたが、こうしたテーマにおいては、「PRとはそもそも何か?」「PRは何の略か?」といった疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。そこで、PRについてもう少し詳しく見ていきましょう。

上述のように、PRは“Public Relations”の略ですが、これをどう定義するかについては、さまざまな考え方があります。

公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会のホームページでは、現在、PRの定義について以下のように説明しています。

——アメリカのパブリックリレーションズの教科書として最も読まれてきたカトリップ、センター、ブルーム3氏による『Effective Public Relations』(邦訳名『体系パブリック・リレーションズ』)では、次のように定義している。「パブリック・リレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である」――

※出典:パブリックリレーションズとは|日本パブリックリレーションズ協会

この定義を読み解くと、例えば「企業のPR」であれば、「企業とパブリックの間で良い関係(お互いにとって利益のある関係)を築き、それを維持するマネジメントの機能」ということになります。

では、この「パブリック」は何を意味するのでしょうか。すぐに思いつくのは、既存顧客や潜在顧客、投資家、メディア、サプライヤーなどなんらかの利害関係がある人(ステークホルダー)でしょう。もちろん、これらの人々は「パブリック」ですが、ステークホルダー以外の政府やオピニオン形成者なども「パブリック」に含まれます。すなわち、「パブリックリレーションズ」は、こうした「組織を取り巻くもの」と組織との間で良い関係を築き、それを維持していくためのマネジメント機能と捉えることができます。

PRの例

少し例を挙げるとイメージしやすいかもしれません。例えば、『新版 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。』(本田哲也著)では、次のようなことがPR(パブリックリレーションズ)の例として挙げられています。

  • ●レコード会社が株主総会で、自社レーベルに所属する歌手のミニライブを開く
  • ●テーマパークが「県民の日」に限り、地域住民の入園料を割引く
  • ●企業が自社の環境保護活動を消費者にアピールし、イメージアップを図る

つまり、企業であれば、消費者を含む「パブリック」に自社を好きになってもらうための活動がPRの代表的な活動であるといえます。

ここで1つ、最近行われたPRの実例もご紹介しましょう。

  • ●Airbnb とBBC Earthのコラボ企画:Night at Blue Planet II
    2018年初頭に英BBCのドキュメンタリー番組『プラネットアースⅡ』と民泊サービス「Airbnb」が共同で実施したPRキャンペーンです。『プラネットアースⅡ』は高い視聴率を誇る人気番組。まるで実際に現場にいるような臨場感を感じられるのが特長ですが、BBC Earth(BBCの番組ブランド)は、番組のファンに1ランク上の体験をしてもらうチャンスを提供したいと考えていました。そこでタッグを組むことになったのがAirbnbです。

キャンペーンの内容は、「応募者のなかから2名を選び、プラネットアースの海編『Blue Planet II』で使用されている海洋調査船での2泊3日の旅に招待する」というもの。「当選者は潜水艦に乗り込み、カリブ海の海中で番組スタッフが撮影する様子も見学できる」という魅力的な企画です。応募方法は、「海のなかでどんな探検をしたいか」というテーマで書いた作文を提出するだけという簡易なものでした。

誰でも気軽に参加できるキャンペーンを実施することで、Airbnbは自社ブランドに親近感を持ってもらうことができ、BBC Earthはより多くの視聴者を獲得できるチャンスを得られました。両者にとってWin-Winの企画だったといえます。

Win a Night At Blue Planet II | Airbnb

PRと広報の違い

ここで疑問が生じる方もいるのではないでしょうか。それは、「PRと広報の違いは何か?」ということです。また「PRと広報は同じものでは?」と考えている方も少なくないでしょう。

実際、広報についても「組織が社会と良好な関係を築いていくための活動」といった意味に捉えられることが多く、その場合、広報とPRは同義と見なされます。また、この活動自体を「広報PR」というワンワードで表現することも多いのが現状です。

これには歴史的背景があり、日本パブリックリレーションズ協会のホームページでは、次のように説明されています。

——パブリックリレーションズ(Public Relations)は20世紀初頭からアメリカで発展した、組織とその組織を取り巻く人間(個人・集団・社会)との望ましい関係をつくり出すための考え方および行動のあり方である。日本には第2次世界大戦後の1940年代後半、米国から導入され、行政では「広報」と訳されたのに対し、民間企業では「PR(ピーアール)」という略語が使われてきた。しかしその後「PR」は「宣伝」とほとんど同じ意味で使われるようになり、本来持っていた意味から離れてしまった。そのため多くの組織では、その職務を「広報」と呼ぶことが多くなっている。——

※出典:パブリックリレーションズとは|日本パブリックリレーションズ協会

パブリックリレーションズはこうした経緯で導入されましたが、その定義に関しては、時代の流れのなかでさまざまな考え方が生まれました。現在は主に次の3つの捉え方が多く見られます。

  1. 1.「PR」は「広報」と同義。「組織が社会と良好な関係を築いていくための活動」のこと。
  2. 2.「広報PR」または「広報・PR」というワードで、「組織が社会と良好な関係を築いていくための活動」を示す。
  3. 3.「PR」と「広報」には違いがある。

この3の考え方は、「広報が組織からの一方的な情報発信であるのに対し、PRは、組織を取り巻くさまざまな人々と相互にコミュニケーションを取るものである」というものです。すなわちここでは「広報:一方から発信」「PR:双方向あるいはマルチディメンショナル」と区別されています。

  • ●PRも「インタラクティブ」の時代
    PRと広報に違いはあるか?という点については、先ほど挙げた1~3のどれが正解ということはなく、現状ではどの考え方も正解ともいえるでしょう。ただ、これからの時代のPRは「一方通行」のコミュニケーションでは済まず、「インタラクティブにパブリックと関わる」という姿勢で戦略を練っていく段階にあることは確かでしょう。

前述のPRの例をもとに考えてみましょう。

例えば、「企業が自社の環境保護活動を消費者にアピールし、イメージアップを図る」というPRはどうでしょうか。「広報」と「PR」は別のものと考えるスタンスからすると、これが「環境保護活動を消費者にアピールする」段階にとどまれば、それは「広報」ということになります。

しかし例えば、このPRを目にした人から、「その環境保護活動は、新たな自然破壊をもたらすのではないか?」といった意見が寄せられたとしましょう。そうした際に、そのことについてさまざまな角度から検証し、必要応じて計画の軌道修正を行い、その軌道修正を行う理由をパブリックに公表するのが「PR=パブリックリレーションズ」の活動だといえます。

PRと広告の違い

PRと広報に違いはあるか?という点について考察してきましたが、それでは、「PR」と「広告」についてはどうでしょうか? どちらも「自社に対して良いイメージを持ってもらう」ための活動であり、目的や効果が似ていることから、混同されることもあります。しかしこの2つには「広告枠を買うか買わないか」という明確な違いがあります。

「広告」の一般的な意味は、「商業上の目的で有料のメディアを用いて商品やサービスなどの宣伝を行うこと」です。そのための文書や放送、記事などを指す場合もあります。Public=公衆(公的な)、Relations=関係性の2単語が指すように、PRは直接的な販促手法ではありません。主にメディアを通して、自社の情報を客観的に発信してもらうことで、広く自社を消費者に知らせることが目的です。

この際に情報を発信するメディアに対して広告費を支払うと、それはPRではなく広告として扱われます。あくまで、メディアが自発的に取り上げ、広く発信してもらうための活動や情報発信を行うことがPRの本来の意味合いとなります。

前記『新版 戦略PR』では、PRと広告の違いについて、「広告枠を買うか買わないか」のほかに、さらに次の2つの違いが挙げられています。

  • ●信頼性が高いか低いか
    PRの結果メディアに取り上げられる情報は、報道機関というフィルターを通した「客観的」な情報と見なされるため、消費者から信頼されやすい。一方、広告は「広告主」である企業がお金を出して広告枠を買っているため、基本的には企業の希望する方向性で制作される。そのため、客観的な情報とはみなされず、消費者からの信頼を得にくいこともある。
  • ●コントロールしやすいかどうか
    広告の場合は、情報をどのくらいの規模で誰にどんなふうに伝えるかをコントロールしやすい(女性に読んでもらいたい情報は女性誌に、ある地域の人々に伝えたい情報はタウン誌に……など)。一方、PRの場合は、情報の内容や発信のタイミングをコントロールできない。

PRはこのように「自分たちが伝えたい情報を自分たちのやり方で」発信することはできないものの、広告に比べ、コストが大幅に抑えられるという利点があります。

PR活動とは

それでは、実際のPR活動とはどのようなものでしょうか? 企業によって、あるいは人によって、どの範囲の業務を「PR」として行うかは異なりますが、ここでは一例として『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』第12版で「PR部門の機能」とされている5つの機能をご紹介します。

<PR部門が果たす5つの機能>

  1. 1.報道対策——企業を良く見せる形でニュースや情報を公表すること。
  2. 2.製品パブリシティ——特定製品のパブリシティを支援すること。
  3. 3.コーポレート・コミュニケーション——社内外のコミュニケーションを通じて、企業への理解を促進すること。
  4. 4.ロビー活動——法規制の推進あるいは廃止を狙って議員や官僚と交渉すること。
  5. 5.コンサルティング——平常時および逆境時のパブリックの問題や企業のポジションとイメージに関して、経営陣にアドバイスすること。

さらに同著では、かつて「パブリシティ(印刷物や放送媒体などに自社の情報を報道してもらうこと)」と呼ばれていたものの枠組みを超え、重要な役割を果たすものとして「マーケティング・パブリック・リレーションズ(MPR)」というコンセプトが紹介されています。

マーケティング・パブリック・リレーションズ(MPR)の役割

MPRは、パブリシティを一歩進めたもので、次のような役割を果たすと考えられています。

  1. 1.新製品発売の支援
  2. 2.成熟製品のリポジショニングの支援
  3. 3.製品カテゴリーに対する関心の構築
  4. 4.特定の標的集団への影響
  5. 5.社会問題に直面した製品の弁護
  6. 6.自社製品に好意的に反映するような企業イメージの構築

2の例として同著で挙げられているのは、ニューヨーク市の「I love New York」キャンペーンです。1970年代のニューヨークは暴動や犯罪が多く、評判が悪かったのですが、このキャンペーンを実施することで多くの観光客が訪れるようになりました。

4の例としては、「米国においてラテン系やアフリカ系アメリカ人のコミュニティと良好な関係を築くためのイベントを後援する」といったことが挙げられています。例えば、ニューヨークで地下鉄の車内広告を見ると、同じ内容で「英語版」と「スペイン語版」が掲示されていることがよくあります。

また、6の例としては、「ビル・ゲイツのスピーチや著書」がマイクロソフト社の革新的イメージを創り出すのに役立ってきたものとして取り上げられています。企業の創業者やCEOの活動は社会的に注目されやすく、そのままその企業のイメージにつながるケースが数多く見られます。

MPRを実施する際には、目的を設定し、タイミングと方法を考え、媒体を選択します。そしてMPRの効果測定を行う際には、露出数、認知・理解・態度変容、売上や利益への貢献などのデータが用いられます。

「プロモーション」「PR」「広報」「広告」の違い

「プロモーション」「PR」「広報」「広告」の違いについて、ここまででご説明してきたことを簡単に整理し、まとめると、次のようになります。

  • ●プロモーションとは
  • 1)広義の意味
    直接的なものから間接的なものまで含めた総合的な販売側と顧客のコミュニケーション全般。Advertising(広告)、Sales Promotion(販促)、Public Relations(パブリックリレーションズ)、Personal Selling(人的販売)などに分類される。
  • 2)狭義の意味
    主に、Sales Promotion=SP(販促)を指す(PRに対し、より直接的な販売の促進を目的としたキャンペーンなど)。
  • ●PRとは
    「パブリックリレーションズ(Public Relations)」のこと。プロモーションのなかにPRが含まれる。「広報」と同義と捉えられることもあれば、別のものと捉えられることもある。「別のもの」とみなされる場合、「広報:一方から発信」「PR:双方向あるいはマルチディメンショナル」と区別される。
  • ●広報とは
    組織が社会と良好な関係を築いていくための活動のこと。
  • ●広告とは
    商業上の目的で有料のメディアを用いて商品やサービスなどの宣伝を行うこと。有料である点がPRと異なる。

言葉の意味はしっかり確認を

プロモーションがマーケティングに関する総合的な販売コミュニケーションを指すのか、セールスプロモーションを指すのかで検討する範囲は大きく変わります。

仕事をし慣れた相手であれば、言葉の意味を確認するまでもないかもしれませんが、初めて仕事をする人に対しては「プロモーションという言葉をどういう意味で使っているか?」について、確認をしておいたほうがいいケースが多々あります。また、PR、パブリックリレーションズ、広報、広告なども人によって捉え方が異なる場合があることに留意したほうがよいでしょう。

ちょっとした言葉の行き違いが、大きな認識のすれ違いに発展しないようにご注意ください。

参考:

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