1.世界から注目されるイベントで街をブランディング

カンヌと言えば、まず真っ先に思い浮かぶのが、毎年5月に開催されるカンヌ国際映画祭ではないでしょうか。カンヌが観光都市として成長した過程を語るのにこの映画祭の存在は欠かせません。

では、なぜこのカンヌという場所でこの世界的なイベントが確固たる地位を築けたのか。その理由として、2つの好条件が考えられます。

1つめは立地。かつては庶民的な港町だったカンヌですが、19世紀に入ってイギリス貴族の保養地となったことで、世界のセレブリティが集まる高級リゾート地としての下地が徐々に作られていくようになります。そんな「セレブが集まる地」だからこそ、映画祭のような華やかなイベントを誘致できたといえます。

2つめは時期。5月の南仏はとても気候がよく、各地の混雑がはじまる夏のバカンス前の好時期です。フランスだけでなく、ヨーロッパ中からリゾートを求めてセレブが集まるため、何かと注目を集めやすい時期でもあります。

2.華やかで人を惹きつける!映画祭にまつわるスポンサー活動

セレブ効果でマスコミへの露出が増えることを想定したカンヌでのプロモーション活動は、企業側にとって大きなチャンスであると同時に、自治体にとっても都市のブランド力を上げることができる機会でもあります。ここで映画祭にまつわるスポンサー活動事例をご紹介します。

① ロレアル:「レッドカーペットコレクション」

オフィシャルパートナー19年目を迎える「ロレアル」は、フランスを代表する大手化粧品ブランドです。女優のようなスモーキーアイに変身できるアイシャドウなど、きらびやかなコスメラインをそろえた「レッドカーペットコレクション」を毎年発表。期間中は専用のブースを設置してメイクアップのプロによるメイクアドバイスを実施するなど、自社アイテムを存分にアピールしています。

② マスターカード:「ウィークエンド・ドゥ・スター・ア・カンヌ」

映画ファンなら簡単に解けるクイズに答えるだけで、抽選で1組2名にカンヌの一等地にあるラグジュアリーホテルでの週末滞在がプレゼントされます。現地で滞在を楽しむ当選者のもとには、マスターカード社が主催するガラ・パーティーへの招待状が渡されるというサプライズな贈り物も。プロのアーティストによるパーティー用ヘアメイクに、豪華衣装の貸し出しもあり、まるで映画スターになったかのような夢心地の気分に浸れるという演出です。

③ ショパール:「グリーンカーペットチャレンジ」での商品アピール

パートナー歴20年、映画祭のトロフィーも手掛ける「ショパール」は、老舗宝飾ブランドの威厳を保つ一方で、時代の流れに沿った活動も推進。その一つが、環境保護や持続性をテーマにしたファッションムーブメント「グリーンカーペットチャレンジ」への参加。「サステナブル・ラグジュアリー」をキーワードに、発展途上国の金採掘者を支援して労働条件の改善を図り、環境や社会問題に積極的に取り組む姿勢をマスコミに向けて表明することで、企業や商品に付加価値を与えています。

その他、グッチやバレンシアガなどのハイブランドを傘下に置くアパレル財団の「ケリング」は、2015年より「ウーマン・イン・モーション」というプログラムを企画。伝説のハリウッド女優や女性監督、女性実業家を招いてトークディスカッションのほか、若手女性監督に賞を授与する活動などを行っています。この企画で映画界における女性の地位向上を訴えると同時に、女性への暴力撤廃を掲げるケリングの企業方針をアピールする機会にもなっています。

セレブ側にとっても有名ブランドのパーティーに招待され、カンヌを社交場として活用できることがステイタスとなります。実際に、カンヌ入りしてもパーティーへの出席が目的で、映画祭には顔を出さないというセレブも。こうしたプロモーションやブランディングの機会があることで、それらを活用したい企業や人々をカンヌに引き寄せるという仕組みになっているのです。

カンヌ02.jpg

3.セレブに照準を絞った独自のサービス基準

観光大国のフランスでも、ことサービスの質においては改善の余地ありと見られる場面もしばしばあるのが現状です。しかしカンヌでは「オンリー・カンヌ」という協約の下、ホテルやレストラン、タクシーなど観光事業に関わる人々が、コストパフォーマンスが高く良質なサービスを提供できるよう日々努力しています。

具体的には価格設定の透明化、言葉遣いや接客態度の細かい部分に至るまでマニュアルを徹底させており、ビジターの満足感を優先していることがうかがえます(協約に度重なる違反が見られた場合は、協会のロゴマークが使用できなくなるという罰則も)。富裕層だからこそ、対価に見合ったサービスを求め、満足できなければ厳しい評価を付ける傾向があるためです。

4.カンヌ旅行はステイタスになる!イメージ演出の巧みさ

そのほかにもセレブを惹きつけるヒントがカンヌにはあります。たとえばプライベートビーチを活用した、映画のワンシーンのようなラグジュアリーな時間の提供などもその一つです。現在、33軒ものレストランがプライベートビーチを所有し、砂浜にテーブル席が出せるデッキを設けてこのような演出を行っています。

カンヌ03.jpg

ほかにも、特別感の演出はあります。映画祭期間中はホテルの予約は基本的に1週間単位からの予約のみ。ゆったり楽しめるセレブを中心に受け入れています。宿泊単位が1週間以上というのは、バカンスの多いフランスでは決して珍しくない滞在スタイルです。

また、ラグジュアリーホテルは、近隣のカジノやゴルフ場などのレジャー施設と提携し、セレブ好みのホリデープランのプロモーションを多数展開しています。このような取り組みが「カンヌへ行くこと=セレブなバカンスを過ごすこと」とのイメージづくりに一役買っているのです。

■まとめ

南仏の小都市カンヌが映画祭などの国際的イベントを上手く利用しつつ観光都市としてプレゼンスを発揮している理由は、セレブというぶれないターゲット設定のもと、都市としてのブランディングとマーケティングに成功しているからです。観光客をひきつける都市開発の好事例として、カンヌから学べることは多くありそうです。

<参考サイト>

おすすめ資料