いよいよ2016年2月24日から実施されるプレミアムフライデー。政府・経済産業省が経団連などと検討を進めてきた、月末の金曜日に早めに仕事を切り上げることを提案し、消費活動の活性化を狙うための取り組みです。15時退社を推奨しており、買い物や外食の売上増加、温泉旅行や短距離フライトの海外旅行などの利用客増加が期待されています。小売業界ではこうした新しい動きに対応するため、各社独自のプランを打ち出していますが、単なる値下げセールに留まらず、いかに「プレミアム」で特別感のあるプロモーションを行うかが、生き残りのためのひとつの鍵となりそうです。
今回はイギリスにおいて小売業界をリードし世界中に顧客を持つ「ハロッズ」と「セルフリッジズ」に焦点をあて、プレミアムフライデーに向けて小売業のマーケティング戦略に役立つかもしれない5つのヒントをご紹介します。
(1)ハロッズとセルフリッジズに見る「競合による相乗効果」
誇り高き百貨店の王者ともいえる「ハロッズ」と、伝統と革新を兼ね備え上流階級からファッション感度の高い若い層にまで支持される「セルフリッジズ」。その競争の歴史も長く、1917年にはセルフリッジズがハロッズにどちらがより大きな売上げをあげられるかという挑戦状を叩きつけた、というエピソードが残っています。その戦いで敗者となったセルフリッジズから贈られたハロッズの建物をかたどった銀製レプリカが、今でもハロッズの半一階に飾られています。
現在も両店ともさまざまな〈世界のベスト百貨店〉ランキングに選出されるなど、甲乙つけがたいライバル関係が続いています。ハイレベルな競争意識でお互いに切磋琢磨する様子をあえて打ち出すことで、顧客の興味をさらに引きつけることにつながっています。自社だけにとどまらず、業界全体の話題喚起という意味では、ライバル社を巻き込んだセールスプロモーションは有効と言えるでしょう。
(2)独自の特色を明確にした「顧客層」と「ブランディング」とは!?
ハロッズのターゲットとする顧客層は富裕層・上流階級です。財力と地位がある顧客を満足させるための高級志向と英国一の品揃えが自慢で、ハロッズカラーである緑の制服を着たグリーンマンと呼ばれる顧客サービス係を7人常勤させています。また売れ筋のハロッズ・オリジナルグッズのコーナーや、故ダイアナ妃の恋人の父親でハロッズ前経営者であったアルファイド氏が作ったエジプト風ホール、豪華絢爛な内装と店頭イルミネーションは、同店に憧れる観光客を取り込むのにも一役買っています。
一方、セルフリッジズは、初代オーナーの意志を受け継ぎ、高級ブランドからファストファッションまでを網羅。内装はシンプルかつモダンで、 庶民層から富裕層まで誰もがアプローチしやすい雰囲気となっています。 また、2013年から2016年まで放送されたITVの「ミスター・セルフリッジ」はセルフリッジズ開業当時の様子を描いた人気ドラマシリーズで、同店のイメージアップに大いに貢献しました。顧客とメディアを上手く取り込むのも、大事なポイントですね。
(3)「プレミアム感」を強調したディスプレイやレイアウト
ウィンドウ・ディスプレイは、買い物客や通りすがりの歩行者が真っ先に目にするもので、店の個性やお勧め商品の魅力を集約する、いわば店舗の顔です。どれもひとつの芸術と言っていいほど趣向が凝らされており、インスタグラムやブログなどSNS用に写真を撮る人が後を絶ちません。イースター、ハロウィン、クリスマスなどは特に華やかで、このためにわざわざハロッズやセルフリッジズの店頭まで足を運ぶ人もいるほどで、その集客効果はあなどれません!
加えて、ハロッズ、セルフリッジズともに、世界中から選び抜かれた食品フロアも特筆に値するでしょう。ハロッズは1982年フードホールの改装時に、建設当時の見事なヴィクトリア調のタイルを修復しました。このような歴史的鑑賞物にもなるような空間が、ハロッズ銘柄の紅茶やワイン、世界各国から集められた超一流食材をより一層引き立てています。セルフリッジズでは、 2014年にオープンした250種類ものチョコレートが並ぶ「チョコレート・ライブラリー」がフードホールを華やかに彩っています。
また、週に約7,000足を売り上げるという世界最大規模の靴売り場、次々に変わるポップアップ・ショップや、2016年11月に拡張し新オープンした高級ブランド小物を集めたアクセサリーホールなど、新鮮な話題づくりに事欠かないのが、セルフリッジズの特徴です。
このように、ハロッズ、セルフリッジズともに商品というコンテンツもさることながら、「ここに行けば何かあるかも」「見ているだけで気分が盛り上がる」と消費者に思わせて、行動喚起に結び付けるプレゼンテーション手法は、さすが老舗の百貨店ブランドだと感じます。
写真:セルフリッジズ、チョコレート・ライブラリー
写真:セルフリッジズ、イルミネーション外観
(4)便乗しない、という選択。「ブラックフライデー」と「サイバーマンデー」など新セールへの対応
イギリスではここ数年、アメリカから影響を受けた「ブラックフライデー」と「サイバーマンデー」が大変な盛り上がりを見せています。とはいえ、感謝祭の習慣がないイギリスでは「ブラックフライデー」も「サイバーマンデー」も、クリスマス・セール商戦を11月末に前倒しにした〈単なる値引き合戦〉のイメージがあることも否めません。そんな中、ハロッズもセルフリッジズもこのブームには消極的な対応を見せ、あえて周りの風潮に流されず高級店の風格を保つことを意識したように感じます。自分たちが大切にしたいターゲット顧客をよく分析しての結果でしょう。
話題の商戦に参画するときに、単なる値引きセールになってしまっては、ブランドイメージの損失になります。そうならないための例としてハロッズでは、顧客との関係を長く深くしていくために、顧客がディスカウントデーを自分で決められたり、特製ギフトボックスを利用できたりと、買い物金額に応じた特典を用意しています。話題性だけではない、顧客目線のサービスを展開する、ということを重視しています。
(5)イギリス最大の国民行事であるクリスマス・キャンペーンから得るヒント
クリスマスはイギリス最大の国民行事であるため、イギリスの百貨店ではクリスマス・キャンペーンに特に力を入れています。秋になると少しずつクリスマス用品を扱う売り場が広くなり、クリスマスの華やかなデコレーションが始まります。
クリスマス時期にイギリスのあちこちに登場する「サンタの洞窟」は、子どもがサンタクロースに直接会ってちょっとしたプレゼントをもらい、写真を一緒に撮れるというイベントです。毎年11月からオープンするハロッズの「サンタの洞窟」は特に人気で、子どものサンタ初体験はハロッズでという親や、サンタに会いたい子どもたちで大盛況、約1,400円(10ポンド)のチケットは事前に完売するほど。驚くべきは、このチケット代金がイベント参加当日にハロッズ会員カード口座に払い戻しされ同年12月末まで店内で使用可能と、しっかり消費を促す仕掛けになっていることです!
セルフリッジズも、負けていられないと昨年大胆なクリスマス企画を打ち出しました。なんとまだ真夏の8月にクリスマス用品を店頭に並べたのです!年々クリスマス用品が店頭に並ぶ時期が早くなるというイギリス人のぼやきを近年よく耳にしますが、これにはさすがに世間が驚いたようでニュースにもなりました。両百貨店とも顧客の関心を集め、クリスマス商戦を勝ち抜く工夫を凝らすことに余念がありません。
以上、ハロッズとセルフリッジズに学ぶ5つのヒントはいかがでしたか? プレミアムフライデーに向けてワンランク上のプロモーション・アイデアを考えるのにぜひ、お役立てください。
写真:セルフリッジズ、店内の様子(クリスマス時期)