“データは次の石油”とも言われる現代、その利活用のあり方が事業展開に大きな影響を与えるようになりました。しかし、「こういうデータが欲しいが、なかなか抽出できていない」「データはあるが、どう利活用すればいいのかわからない」というのが、データ利活用部署の担当者のお悩みではないでしょうか。
HintClipでは、そのヒントを探るべく、三菱地所にて「丸の内データコンソーシアム」の運営に携わられている小松原綾さまと、共同印刷にて「WIC@LAB(ウィカラボ)」を主幹する吉丸滋美による対談を企画しました。データ流通市場の最前線に立つ二人から見た市場の現状、現在の取り組み、そして未来の展望について語り合っていただきました。
[全2回]

データの利活用に悩む企業のために共創の場を提供

――丸の内エリアから、最先端のデータ活用によるイノベーションを目ざす「丸の内データコンソーシアム」

小松原:私は、丸の内エリアのオープンイノベーションフィールド化を推進する業務に携わっており、主に「Marunouchi UrbanTech Voyager」プロジェクトを担当しています。異業種の企業やスタートアップ、大学の研究室と共に、丸の内エリアで先端技術を活用した実証実験をしたり、データ活用を検討・検証したりする取り組みです。「丸の内データコンソーシアム」はこの流れの中で企画し、2019年9月に富士通株式会社と共同で立ち上げました。
膨大なデータを保有している企業のなかには、自社だけでは活用方法を見つけられないという声は少なくありません。また、自社が持つデータを他社のデータと掛け合わせることで、これまでにない価値を創出できる可能性もあります。データの活用をミッションにされている方がたくさんいるということを聞き、そうした方同士が議論し合って、新しい価値を生み出す場になればと考え、「丸の内データコンソーシアム」という名称にしました。
プレスリリースの反響もあって参加企業は徐々に増加しており、現在17社になります。
丸の内コンソーシアムでは主に次の二つの活動をしています。
まずは、アイデア創出のためのワークショップです。東京大学の大澤先生に監修していただきながら会員企業参加のワークショップを行い、データ及びアイデアから事業につなげるためのステップを実践しています。
もう一つは、2~3社単位での個別プロジェクトです。共同印刷のように何かしらのデータを持っている、もしくは具体的にデータの利活用をしていきたい企業を集めてプロジェクト化し、新しいビジネスでの活用に向けた検討を行っています。

「丸の内データコンソーシアム」のデータ利活用イメージ図

https://www.fujitsu.com/jp/products/network/carrier-router/dataexchange/virtuora-dx/saas/event/marunouchi-dc/

データ利活用に取り組んで頂くステップ

「丸の内データコンソーシアム」の体制イメージ図

「丸の内データコンソーシアム」の体制イメージ図

――共同印刷が運営を始める次世代コンソーシアム「WIC@LAB(ウィカラボ)」が誕生するまで

吉丸:「WIC@LAB」もデータの利活用による新しい可能性を拓いていくという視点から生まれたプロジェクトです。私は共同印刷のトータルソリューションオフィスという部署で、新規事業や新サービスの開発に携わっています。得意先の顧客データをお預かりし、データを分析してお戻しするというデータ分析業務に長く携わるなかで、データを使って新しいビジネスの可能性が拓けるのはないかという気付きを得たことが、このプロジェクトを立ち上げるきっかけの一つとなりました。
その後、企業やアカデミアなどさまざまなセクターとの共創を経て、今年6月より「WIC@LAB」を設立。「多様化する女性のインサイトを研究し、新たなマーケティング手法を創出するマーケティング・ラボ」をコンセプトに次の3つの活動を行っています。

WIC@LABサイト https://wicalab.com/

WIC@LAB

WIC@LABとは


WIC@LABは共同印刷が運営するマーケティング・ラボです。会員企業の皆さまと協業・共創しながら、多様化する女性のインサイトを研究し、新たなマーケティング手法を創出します。

1.女性インサイト研究
女性の本音をとらえるためのアプローチ方法、リサーチ方法の研究

2.データ活用を基本とするマーケティング手法習得のためのプログラム提供
多業種が集まりアイデアを創出するワークショップや基礎的なマーケティングリサーチ講座など、データ活用を実体験できるプログラムを提供し、人材を育成

3.「ペルソナキューブ」を活用した次世代マーケティングの基礎研究

「ペルソナキューブ」は、WIC@LAB独自の手法で収集した20代から60代の女性10,000人へのアンケートを基盤にしたマーケティングプラットフォームです。ペルソナを通して“見える化”したデータを会員企業との研究に活用します。


※活動の一環として、女性マーケティングに関する調査レポートを毎月リリースしていく予定です。ダウンロードできますので、ぜひ参考にしてください。

ダウンロード資料 ①調査レポート

吉丸:取り組みのきっかけは、2015年頃、社内で「女性市場では多くの重要な商材を扱っている」「女性のマーケティングデータを独自に集め、付加価値のあるサービスとして提供していくべきではないか」という声があがったことです。
そこから、「Women’sインサイト・コミュニケーション」というプロジェクトが立ち上がり、毎年女性の意識調査を実施してペルソナ化し、展示会で紹介するという活動を継続。やがて、「これは一つのサービスになるのではないか」という声が増えてきたことから、「ペルソナ・カタログ」という印刷物として販売しました。しかし、なかなか浸透が難しく、社会科学の研究者に入っていただきプラットフォーム化したのが、今の「ペルソナキューブ」の前身になっています。ただ“データを解析するツール”の提供だけでは、導入当初は物珍しさから触っていただけるものの、2~3カ月たつと離れていってしまう傾向にあります。そのため、常に活用していただき、ブラッシュアップしていく場としてラボという形態をとっています。

データ流通市場を広げるカギは“共感を生む仕組み”

――データ流通市場の現状と難しさについて

小松原:昨今、個人の関与の下でデータ流通・活用を進める「情報銀行」が注目されています。丸の内データコンソーシアムでもこのテーマを扱っていますが、そこで感じるのは「自分のデータが価値になる」という認識が個人レベルで浸透してきたということです。ただ、自分のデータを開示するとなった際、何が目的なのか、またその目的が正当なものなのかが非常に重要で、ここが欠けているとデータが集まらず、流通していきません。目的をきちんと定めた上で、そこに共感する人たちを徐々に集めていくこと、「いかに共感を生む目的をつくれるか」が肝だと感じています。

吉丸:確かにそうですね。そこには日本人の慎重な国民性も大きく影響していると感じます。現在、国を挙げて日本のデータ活用を何とかしなければならないということで経産省や総務省が旗振りをしていますが、いざ企業側にデータを出してもらう段になると、出せるか・出せないのかの企業側の判断はやはり非常に慎重です。個人でも「本当に自分のデータを出して大丈夫なのか」と心配される傾向にあります。
企業にデータの利活用を提案するにしても、「事例はあるのか」「実績はあるのか」を知りたがる企業と、「まだ事例が少ないからこそ一緒にやりたい」という“私たちの思い”がなかなか噛み合いません。そこをどう説得したらデータを出していただけるかが、データ流通市場のプレーヤーが最も悩んでいるところだと思います。

小松原:そうした状況を変えていくには、コンソーシアム的な枠組みを使いながら、まずは目的やビジョンを共感した企業や人とミニマムに始め、少しずつ共感と理解を深めるしかないとも感じています。本当にデータに興味があるという方が集まれば、話が進みやすいですし、トライアルでもまずは始めてみようという判断になりやすいものです。そのなかで、「予想よりも反響があった」「モニターを募集したらこんなに集まった」という、小さいかもしれませんが確かな実績を重ねていくことで、大きな取り組みにつなげていくことが第一歩と考えています。

生活者の動線とペルソナを掛け合わせることで生まれる可能性

新型コロナウイルス感染症の拡大によるオンライン化とデータ活用へのスタンスの変化

小松原:当社では丸の内データコンソーシアムの一環として、株式会社unerryと共に街の中にビーコンを設置し、街に来られた方々の回遊の分析を始めています。例えば「緊急事態宣言期間が終了してだいぶ街に人が戻ってきた」という傾向も見えてきて、改めてデータを取ってみて分かること、見えてくることが多いと気付かされました。
そこから後は、お客さまのニーズをくみ取って街の価値を提供すること、例えば店舗誘致や、ニーズに合致した品揃えなどに反映していけるとベストだと思います。
そのためには、お客さまの行動に加えて、各個人のパーソナリティを知る必要があると考えています。そこで、共同印刷のペルソナデータなどを活用させていただくことが重要だと考えており、大いに期待を寄せています。

吉丸:ありがとうございます。当社のペルソナデータを使って、「この空間に入った時、女性はこういう気持ちになるだろう」という想像から、新しい商品やビジネスが生まれる可能性を拡げられたらいいですね。それが、WIC@LABにとっても良いステップになると感じています。

小松原:共同印刷から女性のペルソナデータについてお話を伺い、ブランドでも食の傾向でも、同じ年代の女性と男性ではまったく趣味趣向が異なり、非常に興味深いと思いました。同時に、もしかしたらこれまではスポットが当たりにくかった「女性の目線で見た時に本当に欲しいもの」が浮き彫りになるのではと感じています。それはとても意義があることですね。

[前編まとめ]データ利活用は収縮する市場を広げる突破口になる

ー女性のペルソナデータの可能性

吉丸:言うまでもなく今、日本の人口は減少の一途をたどっています。以前のマスマーケティングでは、「〇〇世代、○○層にアプローチする」という考えがありましたが、もういずれの世代の男女も減ってきてしまっている。今後は、海外に市場を見出すか、切り口を変えることでしかマーケットを広げる手段はないわけです。ペルソナマーケティングは特に後者において非常に有効だと思っています。
女性市場に注目した背景にあるのは、女性の社会進出、働き方改革です。2019年にWIC@LABのプレ研究会で調べたアンケートデータによると、女性は40歳を境に働き方が一転します。20~30代の女性は、一般会社員が35~45%を占めていますが、40歳を過ぎると今度はパート・アルバイトの割合が一気に増えます。今後はフルタイムでの働き方が増加すると考えられますが、女性の働き方、価値観の多様化は市場として可能性があります。また、総務省の「平成26年全国消費実態調査」によると女性は男性と同じ収入を得たときにはより多くの消費をする傾向が報告されています。もちろん自分自身への投資も含まれていると思います。女性の消費、ニーズを追求していけばまだまだ伸びしろがあるでしょう。
そのような状況下、今までタブーとされてきたホルモンバランスケア関連の市場が急激に増えそうだという予想もされています。そのため、女性のインサイト、価値観の部分はますます大事になってきており、インサイトを点と点で結んでいくと大きな市場になるという可能性を秘めています。女性インサイトのペルソナマーケティングは、収縮していく市場を広げる一つの突破口になると期待しています。

小松原:吉丸さんが仰るように、女性の社会進出に伴って、ワーカーのなかにも女性の割合は増えているので、その方たちに価値をご提供することも重要なミッションだと考えています。女性を対象にしたサービス提供やイベント企画など、これまで以上に意識していく必要があと感じます。

吉丸:女性市場におけるデータ利活用に大きな可能性が期待できるお話ができましたね。それでは[後編]では、丸の内データコンソーシアムとWIC@LABの取り組みとして計画している、マーケティングプラットフォーム「ペルソナキューブ」を活用したワークショップについてお話しましょう。

三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部 オープンイノベーション推進室

小松原 綾さま

2019年より三菱地所エリアマネジメント企画部オープンイノベーション推進室にてMarunouchi UrbanTech Voyagerプロジェクトを担当。丸の内エリアにおける先端技術の実証実験を企画実施するほか、丸の内データコンソーシアムを運営し、企業間でのデータ活用に取り組む。

トータルソリューションオフィス マーケティングソリューション部 担当部長

吉丸 滋美

1993年共同印刷入社後、クリエイティブ部門、営業企画部門、デジタルプロモーション部門、IT開発研究部門を経験しながら2009年にデータ分析サービス体制を立ち上げ。2015年、社内外メンバー参加型の「これからの女性市場研究会」をスタート。2017年に20~60代女性をターゲットにしたペルソナマーケティング支援サービス「ウーマンズ・インサイト・コミュニケーション(WIC)」をリリースし、2018年より女性ペルソナプラットフォーム開発に着手。2020年6月WIC@LAB(ウィカラボ)を発足しペルソナキューブをリリース。

資料ダウンロード
「女性10,000人アンケート一次分析レポート 6・7月合併号」

詳しくはこちらから▶▶

多様化する女性のインサイトをとらえるマーケティングラボ WIC@LAB(ウィカラボ)
https://wicalab.com/

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