実店舗、ネットショップ、カタログ、テレビ、電話、ソーシャルメディアなど、現代における消費者の購買チャネルは多種多様です。消費者は、オンラインとオフラインの世界を行き来しながら、その時々の状況において、もっとも便利なチャネルで買い物をします。今回は、こうした消費者行動に対応するものとして発展してきた「O2O」や「オムニチャネル」について解説します。

O2Oとは

「O2O」とは“Online to Offline”の略称で、インターネット(オンライン)の情報によって実店舗(オフライン)での購買活動へと結び付けるマーケティング施策などを指します。例えば、インターネット上でクーポンを発行し、ユーザーがそれを持って実店舗を訪れると割引特典が得られるといった施策が代表的です。「O2O」は主にこうしたオンラインからオフラインへの誘導施策を指す言葉として使われてきましたが、最近では、その逆の動き、すなわち購買行動がオフラインからオンラインへと誘導されるケースも含む言葉として使われることもあります。

近年多様化する消費者行動に対し、企業はオンラインとオフラインをつなげるO2O施策を導入するようになりました。さらには、消費者が複数のチャネルのどれからアクセスしてもシームレスで一貫した対応を受けることが望まれるようになり、そうした流れのなかで生まれたのが「オムニチャネル」です。

オムニチャネルとは?

オムニチャネルとは、オンライン、オフラインにかかわらず、商品やサービスを提供するすべてのチャネルがバックエンドで統合され、シームレスな顧客体験を可能にするシステムです。たとえば、オンラインショップを含めたすべての店舗の在庫情報を統合して一元管理する、あるいは、一人の顧客の情報を実店舗でもオンラインショップでもシェアするといった仕組みが含まれます。

マルチチャネルとの違いは?

オムニチャネルに類似する概念として「マルチチャネル」というものがあります。オムニチャネルとマルチチャネルは、同じ意味で使われることも多いのですが、正確にいえばマルチチャネルは、さまざまな顧客接点=チャネルがあるというだけで、それぞれのチャネルは独立しています。これに対して、すべてのチャネルが連携しているのがオムニチャネルであり、その点が大きな違いです。

オムニチャネルショッパーは購買額が多い

オムニチャネルの最大のメリットは、顧客の購買額を高めることにあります。

調査データを1つ見てみましょう。

インターネット広告会社Criteoによる2018年度第1四半期の調査によると、オンライン、オフライン、オムニチャネルの買い物客の割合は、以下の通りでした。

  • ●オムニチャネルで買い物をする人:7%
  • ●オンラインのみで買い物をする人:44%
  • ●オフラインのみで買い物をする人:49%

一方、売上データを見てみてると、それぞれの買い物客が売上全体に占める割合は以下の通りでした。

  • ●オムニチャネルで買い物をする人:27%
  • ●オンラインのみで買い物をする人:24%
  • ●オフラインのみで買い物をする人:49%

上記の結果を見ると、オムニチャネルで買い物する人は買い物客全体の7%と低い比率でありながら、売上は全体の27%を占めています。その一方で、オンラインのみで買い物をする人の割合は全体の44%と比較的大きい比率でありながら、売上全体の24%しか占めていません。こうしたことから、オムニチャネルの購買額が他と比べて高いことがわかります。

この背景にあるのは、オムニチャネルが提供する利便性だといってよいでしょう。

たとえば、すべてのチャネルがリアルタイムで在庫情報を共有するオムニチャネルであれば、顧客が商品購入の際、ウェブサイトやスマートフォンアプリを使って、各実店舗の在庫状況をチェック、ネットで注文するか、在庫のある最寄りの実店舗に行くか、便利な方法を選んで買い物ができます。

これができない場合、「ネットで注文すると時間がかかるので実店舗で買いたい。でも、在庫があるかどうかも分からない店に無駄足を運びたくない」という顧客を逃してしまうことになります。

オムニチャネルの事例

顧客がスマートフォンで在庫の有無や商品情報を確認できるシステムは、顧客にとって利便性が高く、企業側も商機を逃さない、Win-Winの仕組みであるといえます。オムニチャネルの重要な施策の1つで、近年これに取り組む企業も増えてきました。ここでもいくつかの事例をご紹介します。

ユニクロ

早くからオムニチャネルに取り組み始めたユニクロは、「UNIQLOアプリ」によって顧客の買い物体験を向上させるとともに、エンゲージメントを深める施策を展開しています。

まず、顧客にとって便利なのが、在庫チェック機能。実店舗に足を運ぶ前に、自宅や外出先でその店に在庫があるかどうかを確認できます。また、実際に店舗を訪れた後も、商品のバーコードをスマートフォンでスキャンすれば在庫のチェックができ、商品のレビューも見られます。さらに便利なのが、マイサイズの設定機能。身長、体重、着丈、腕の長さなど、自分や家族のサイズを細かく登録でき、実店舗・オンラインでのショッピングの際に参照することが可能です。

企業側(ユニクロ)からのプロモーションも、アプリを通じて便利に行えます。お買い得商品や季節のアイテムなどが掲載されたデジタルチラシのほか、顧客が「お気に入り」に登録した商品についての値下げ情報なども配信しています。顧客の「お気に入り」に関する情報を配信するということは、パーソナライズされた広告を作成していることになり、顧客とのエンゲージメントを深めやすくなります。

さらには、顧客がアプリの会員証をレジで提示すると、クーポンが当たるゲームにチェレンジできるというおまけまで付いています。買い物体験にエンターテインメント性を取り入れてワクワク感を演出することで、来店の動機付けが強化されています。こうした工夫により、オンラインからオフラインへの流れが作られているのです。

UNIQLOアプリ

H&M

同じくアパレル企業であるH&Mも、日本市場においてオムニチャネル施策を展開しています。

H&M は2017年10月より、「H&M Club(H&Mクラブ)」という新しいサービスを開始。それまでもオンラインショップ用の一般的なアカウント制度はありましたが、それをさらに発展させた内容になっています。顧客はアプリをスマートフォンにインストールし、そのアプリでさまざまな情報を管理します。実店舗・オンライン共通のポイントを貯められるほか、ディスカウントクーポンやセールの情報を得られます。

H&Mのアプリもユニクロのアプリと同じように、顧客が商品コードをスマートフォンでスキャンすることで、商品情報をチェックできます。実店舗で自分のサイズが在庫切れになっていても、その場で同商品の別サイズのバーコードをスキャンすれば、自分のサイズがオンライン用の在庫に残っているかをすぐに確認することができるので、便利です。こうしたシステムにより、オフラインからオンラインへの流れが生み出されているのです。

H&M Club

今回は、アパレル企業での事例を2件ご紹介しました。アパレル以外の産業でもオムニチャネルの導入は進んでいますが、オムニチャネルはアパレル産業において特に有意義なシステムであるといえます。

服飾販売においては、色違い、柄違いなど、数種類を販売することが多く、また、サイズもワンサイズとは限りません。そうした場合、顧客が実店舗に足を運んでも、自分のサイズや好みのカラーが品切れになっている可能性もあり、その際には店員に在庫の有無を尋ねる……というのが従来の在庫確認の方法でした。しかし、店員の手が空いていない場合は、顧客が待ちきれずに諦めて店を後にする……ということも、以前はよくあったでしょう。

もし自社の他店舗にその顧客の希望通りの商品があったのに、顧客が諦めて帰ってしまったのだとしたら、販売の機会を逃してしまったことになります。また、「お客さんを待たせたうえに、希望に添えなかった」ことから、店舗に対する信頼も失われ、リピーターとなってもらえるチャンスを逃してしまった可能性もあるでしょう。ところが、顧客が自分で在庫を確認できるようになれば、待ち時間もなく、スムーズな買い物体験を楽しむことができるうえ、店舗の側でもスタッフの手間が減り、その分ほかのことに時間がかけられます。

また、顧客はたとえ実店舗で気になる商品があっても、その場で購入を即決できない場合もあります。そうしたとき、これまでは店を離れればその商品のことは忘れ去られてしまっていたかもしれません。ところが、アプリで「お気に入り」に登録できれば、後から思い出して購入してもらえる可能性も高まるでしょう。

もちろん、似たようなメリットは他の産業でも得られますし、現にアパレル以外にも、金融、航空業界、自動車産業、飲食店業界など、さまざまな分野においてO2O化、オムニチャネル化は進んでいます。そして、オムニチャネルは実店舗、オンラインでのエクスペリエンスだけでなく、企業のカスタマーサービスセンターやオペレーターの対応も変化させているのです。

より質の高いカスタマーサービスセンターづくりにも

オムニチャネルは、物を売るという場面だけではなく、カスタマーサービスセンターの質を向上させるのにも効果を発揮します。

自動車保険のかけかえを検討中というシチュエーションを例に考えてみましょう。顧客にとって情報収集に便利なのは、インターネット。外交員に会うことなく気軽に見積もりがとれたり、比較サイトを利用して複数の見積もりを一括して取ったりできるからです。Webチャット機能をそなえたウェブサイトであれば、分かりにくい点を画面上で質問しながら、必要事項を入力することもできます。

こうしてオンラインで必要な情報を収集し、ある保険会社に絞り込んだ顧客が「細かい点は電話で確認したい」と思う場合があります。このとき、オムニチャネルのカスタマーサービスセンターであれば、オペレーターがこれまでのオンライン上のやりとりを閲覧し、顧客のニーズを理解したうえで会話をはじめることができます。顧客がどの商品に興味をもっているのか、保険をかけるのはどんな車か、など、すでにオンライン上のデータで得られている情報について、繰り返し質問をせずにすみ、スムーズな対応が可能です。

オンラインでもオフラインでも一貫した顧客対応を

スマートフォンを常に持ち歩き、いつでもどこでもウェブサイトにアクセスすることが可能な顧客にとって、オンラインとオフラインの境界線はあいまいです。顧客が求めているのは、オンライン、オフラインの複数のチャネルのどれからアクセスしてもシームレスで一貫した対応を受けられること。それを可能にするのがオムニチャネルであり、O2Oを支える仕組みでもあるといってよいでしょう。


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