インターネットや種々のデジタル技術の発展を受けて、マーケティングを取り巻く状況は大きく変わりつつあります。従来からのオフラインでの顧客との接触にインターネット経由での顧客接点が加わり、企業が取得できる顧客データの種類もひと昔前とは比べ物にならないほど増えてきています。

こうした変化を背景として、あらためて「ダイレクトマーケティング」が見直されつつあるようです。

そもそもダイレクトマーケティングとは?

「ダイレクトマーケティング」という言葉は、もともとはメーカーが小売店といった中間業者を介さずに消費者に直接商品を販売することを指して用いられることが多かったようです。DELLのような製造直売、あるいは通信販売や訪問販売などがこの定義に当てはまります。

しかし、近年では企業が顧客に対して直接(ダイレクトに)アプローチするマーケティング手法を指してこの語が用いられる場面が増えてきました。従来のテレビCMや雑誌広告のように不特定多数を相手にしたプロモーション活動とは対照的に、顧客個人をターゲットにしてマーケティング活動を展開するのがダイレクトマーケティングの特徴です。

後者の意味でのダイレクトマーケティングという考え方は、ダイレクトマーケティングの父と呼ばれるレスター・ワンダーマンにより提唱されました。それ以前の広告は消費者に対して企業のメッセージを「伝える」ことが主な目的でしたが、ダイレクトマーケティングでは一人ひとりの顧客に対する直接的なアプローチを通じて、顧客からのレスポンス(反応)を得ることに注目します。例えば顧客や見込み顧客にDMを送付したり、アウトバウンドコールをかけたりして、その反応(レスポンス)をもとに次の一手を考えていくという流れです。

近年のダイレクトマーケティングの傾向

「DMやメールで特定個人にアプローチする」というダイレクトマーケティングの手法自体は、昨今では既にごく当たり前のものとなっています。しかし、近年のデジタル技術の発展は、ダイレクトマーケティングを取り巻く状況にさまざまな変化をもたらしました。

例えば、ネットワークインフラが整備され、PCやスマホが普及したことによって、誰もがいつでもどこでも手軽にインターネット上の情報にアクセスできる環境が整いました。企業から消費者に向けて一方通行で情報を発信するのではなく、消費者の側から企業のWebサイトにアクセスして情報を収集するのが一般的となってきています。
企業側はそうした消費者からのアクセス履歴を取得してマーケティング活動に活用していますが、最近ではさらにDMP(※1)といったものを通じて自社サイトの外での行動履歴も捕捉可能となってきています。インターネット広告も進化し、行動履歴をもとに消費者の興味や関心事にあった広告を表示したり、サイトを訪問したが購入に至らなかった顧客にリターゲティング広告を表示したりといった新しいソリューションが日々誕生しています。

※1:DMP:Data Management Platform/複数のサーバー上に置かれたデータを一元管理する基盤。

「特定の顧客にアプローチしてレスポンスを獲得し、その結果をもとにマーケティング戦略を練る」というダイレクトマーケティングの基本的な考え方を踏襲しつつ、さまざまなテクノロジーや高度な分析技術によって、より精度の高いアプローチを展開できるようになってきているといえるでしょう。

ダイレクトマーケティング現場におけるAIの活用

そうした変化のなかでも特に目につくのが、人工知能(以下、AI)の目覚ましい発展です。
人工知能それ自体は何十年も前から研究されている技術ですが、ここ10年でようやく実用レベルに達しつつあるといわれています。インターネット上やIoT機器のセンサーから得られるビッグデータを自然言語処理技術で解析したり、画像や動画を解析してそこに描かれているものを特定したりする技術が飛躍的に進化しました。また、機械学習や深層学習(Deep Learning)のように、AIが自ら学習して「賢く」なるような技術も日々進化し続けています。

こうしたAI技術をマーケティングデータの分析やプロモーション・キャンペーンの施策立案などに組み込むことで、より高次元のダイレクトマーケティングが可能となるでしょう。例えば、蓄積された顧客の行動履歴データといったものをAIで分析し、そこから読み取れる結果をもとに顧客の行動を予測すれば、顧客が求めるものを最適なタイミングで提案することができます。

マーケティングオートメーションツールにAI技術を組み込むことで、そのような「一歩進んだWeb接客」を実現している製品も既に存在します。

参考:機能 | マーケティングプラットフォームのb-dash

また、スマートフォン向けの広告をAIで最適化する機能をはじめ、広告配信の最適化にも積極的にAIが活用され始めています。

参考:F.O.X | CyberZ|スマートフォン広告マーケティング事業

EC関連のアプリでは、ユーザーが使い込むほどにAIが好みを学習し、そのユーザーにとって最適と思われるファッションを提案するものもあります。

参考:ファッション人工知能アプリ|SENSY

現時点では活用されているAI技術のレベルはまちまちで、ごくシンプルな推論機能だけで「AI搭載」をうたうものもあるようですが、いずれにしてもこの先、ダイレクトマーケティングの世界にAI技術が浸透していくのは間違いのないことでしょう。

デジタル技術で生まれ変わるダイレクトマーケティング

以上、この記事ではデジタル技術の恩恵により新しく姿を変えた「近年のダイレクトマーケティング」について解説しました。

「顧客からのレスポンスをもとにマーケティング戦略を練る」というダイレクトマーケティングの骨子は、あらゆる人やモノがネットワークを通じてつながり合い、リアルタイムにヒューマンデータを収集することが可能となった現代において、かつてとは違う次元で生まれ変わりつつあるのかもしれません。

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