100周年など、節目となる年に多くの企業で取り組まれている周年行事。ところが、実際に企画するとなると、たいていの場合、前任者が社内にいないにもかかわらず、オリジナリティや工夫が求められるため、時間も手間もかかりがちです。そのため、最終的に企画や制作にかける時間がなくなってしまい、結果としてありきたりな企画となり、周年というチャンスをうまく生かせていないことが少なくありません。

そこで、本記事では、企業のブランディングや社内外のコミュニケーションの促進を後押しする周年行事や記念行事の意義にふれながら、新たな企画のヒント、そして、従業員のエンゲージメントを高めるために実施された海外企業の事例を交えてご紹介します。

○企業の周年行事とその効果

周年行事とは、企業や組織の節目となる年に、ビジネスの継続を祝って行われるイベントです。昨今、企業によってはこのような行事を事業戦略の一環として位置づけ、ビジョンの浸透やブランディング、顧客や従業員、株主などのステークホルダーとのリレーションを強化するために活用しています。

なかでも、重視されている目的の一つが企業の重要な担い手である従業員に対してのアプローチです。会社自体や業務へのモチベーションや、従業員同士の関係性、会社へのエンゲージメントを高めることを主要な目的として周年事業を実施されることが多いです。

実際に、従業員に対しての働きかけは、私たちが想定している以上に大きなメリットがもたらされるといわれています。従業員のエンゲージメントは企業への定着率を高めるだけでなく、あらゆる職場における生産性が向上します。クイーンズ大学ビジネススクールが実施した調査によると、ロイヤリティの高い従業員を抱える企業は、そうでない企業と比較し、従業員の生産性が15%向上し、顧客満足度が最大30%向上しました。

従業員のエンゲージメントを高めるにはさまざまな方法がありますが、周年行事は間違いなくその一つとして位置づけられるでしょう。

○周年行事を成功させる3つのヒント

ここで、企業における周年行事や記念行事で最大のROIを実現するために3つのヒントをご紹介します。

1.段取りは早めに
周年行事はなるべく早く、企業の規模にもよりますが約2年前に計画を開始するとよいでしょう。2年あれば過去の記録を遡ったり、ビデオや社史を作成するか、あるいはユニークなパーティーを企画するなど、さまざまなオプションを考えることができます。一番大切なことは準備に時間をかけることで、従業員をはじめとしたステークホルダーがじっくりと周年行事の意義や意味を感じられる機会を提供することです。
また、社史の編纂も考えているのであれば、50年史なら3から5年程度、10年分の追加でも1年は見ておく必要があります。

2.有志の行事委員会をつくる
企業の周年行事を成功に導くには、たくさんのタスクがあり、モチベーションと情熱を持つ自走型のボランティア委員会はこれらのタスクを支える重要なキーとなります。長く企業で働いている従業員、意思決定の権限を持つリーダー、マーケティング経験豊富なスタッフを含めるとよいでしょう。

3.記憶に残るストーリーを集める
顧客や従業員からもっとも自分の記憶に残っているストーリーや思い出を共有してもらうのもよいでしょう。特に企業のコアバリューを象徴するようなストーリーを共有するように働きかけると、企業の原点をあらためて思い起こすことにもつながります。そして、ニュースレターやソーシャルメディア、ビデオ、自社サイトの特設ページなど、さまざまな媒体や手段で従業員や顧客などステークホルダーとストーリーを共有してください。

○Apple新社屋の完成記念イベントにレディー・ガガが登場!?

次に、海外で行われた従業員エンゲージメントを高める目的で実施されるイベントのヒントを見ていきましょう。

iPhoneやiTunes、MacBookなど、日本でもファンの多い商品やサービスを展開するApple社では、2019年5月17日に行われた新社屋「ApplePark」の完成記念イベントに世界で活躍する歌姫、レディー・ガガが従業員向けのプライベートコンサートでの目玉として登場し、ライブを行っています。

このイベントは従業員へ日頃の感謝を伝えるほか、創業者であるスティーブ・ジョブズへの敬意や追悼の意がこめられていました。また、レディー・ガガが歌を披露したメインステージのほか、「ApplePark」内の階段、その日に配布された飲料カップなど、いたる所に創業当初のマルチカラーロゴを想起させる“レインボーカラー”がちりばめられ、視覚からも創業当初の原点に立ち返ることができる仕掛けとなっていました。

従業員向けに配布された記念品のピンバッジの下には『Thank you for being part of what makes Apple, Apple.(アップル社の一員として、アップルを一緒に創ってくれてありがとう)』の文字が刻印され、アップルをアップルたらしめているのは従業員一人ひとりであることが強調されています。

アップル社が満を持して従業員にお披露目した新社屋完成イベントの模様は、参加した従業員のソーシャルメディアでも拡散され、従業員にとって誇りとなり、記憶に残るイベントとなったことは間違いないでしょう。このように、自然にソーシャルメディアなどでの拡散が生まれるような、さまざまな角度から自社の原点に立ち返ることができる工夫はぜひ取り入れたいものです。

○まとめ

Appleのように成功している企業が示すように、幸せで満たされた従業員がいなければ、商品やサービスを通じて顧客を幸せにすることはできません。周年行事はうまく活用することにより、企業のストーリーの一部に加わりたいと願う新たな才能ある人々を惹きつけることもできるでしょう。また、今いる従業員もこのような素晴らしい社史を形づくる一員であることにあらためて誇りを感じる機会にもできます。ぜひ、念入りに計画し、最高の周年事業を実現してください。

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