出産が近づいてくると、ママたちは赤ちゃんとの対面にワクワクする気持ちが盛り上がってきます。その反面、生まれたら一体どんな生活が待っているのか、何を用意すればいいのかといった、不安が次々に湧いてくる頃です。最近はWeb上のまとめサイトやSNSでおすすめ品の情報がすぐに手に入りますが、逆に溢れる情報を前に混乱してしまう人も多いでしょう。まとめて買おうとデパートや専門店に行っても、カテゴリーが多すぎて途方に暮れてしまう…そんなママたちの気持ちは、アメリカでも同様です。今回は、そんなママたちの気持ちに寄り添い心を引きつけるアメリカの絶妙なベビーグッズプロモーション事例を紹介します。
感動を呼ぶオリンピックのキャンペーンCM “Thank you mom”
「大丈夫」、「うまくいく」…災害や事件が起きても、いじめられても、こう言い聞かせて子どもを守り続けてきた。強い人間を育てるためには、誰かの強い力が必要だ―
これは、2016年リオデジャネイロ・オリンピック期間中にアメリカで放送されたCMの内容です。CM中では、ママたちの強い愛がオリンピアンたちの成功につながっていった様子が感動的に描かれています。Youtubeにおける公式動画へのアクセス数は2,000万回を超え(8月上旬時点)、全米を席巻した話題作です。
このCMを中心に展開する“Thank you mom”キャンペーンは、実はベビーグッズや日用品を販売する大手企業の手掛けるプロモーション活動。このキャンペーンでは、話題を呼ぶ動画を配信するのみならず、実際に選手たちを育てたママたちにフォーカスして育児エピソードを引き出し、生活者自身の育児エピソードを募り、共有することを呼びかけています。メダルを獲得した選手が家族のもとに駆け寄る姿を見た後、このキャンペーンを目にすることで、家族がここまで乗り越えた道のりを想像し一層感動が増すのです。日の当たらない「ママ」という仕事を“最も困難な仕事”と称え、エールを送ることで、信頼のおける企業であるというイメージを打ち出しています。
<参考>
P&G “Thank you, mom” キャンペーンサイト
https://www.pgeveryday.com/tag/thank-you-mom
不安なママたちに、産院がそっと手渡すギフトバック
出産後、退院する際に助産師さんから「家でも頑張ってね」と手渡されたのは、1つのギフトバッグ。中にはオムツ、粉ミルク、哺乳瓶、保冷材やバッグなど、新生児を育てるのに必要なグッズがたくさん入っています。
出産直後の赤ちゃんの状態やパパ・ママの役割を教えてくれるチェックリストも含まれ、これからの日々を思う新米ママたちは涙をほろりと流してしまいます。
このギフトバッグはアメリカの病院でよく配られるものですが、これもベビー用品を手掛けるメーカーのプロモーション戦略です。ベビーグッズは定期的かつ継続的に購入されるため、はじめに手に取ってもらい印象づけることが非常に重要になります。このギフトバッグに入っていることで、病院のお墨付き、おすすめイメージがつき、今後の継続購入につながる確率も高いと考えられます。
また、商品のサイトで子どもの性別や生年月日を登録すると、定期的にメールが配信されます。これは月齢に合わせた商品の紹介ではなく、その時々の育児のTips(月齢ごとの成長の特徴、病院で受ける定期健診の内容など)が盛り込まれていることが特徴です。
こうして赤ちゃんの成長に寄り添い続けることで、他の商品に心揺れることなく購入し続けてもらうことが狙いとなっています。
全米で共有する生まれたての赤ちゃんの記憶
また、生まれたての赤ちゃんのイメージが、あるアイテムにより、アメリカ中で想起されるというおもしろい現象があります。映画、ドラマ、CMなどで赤ちゃんがおくるみに包まれるシーン。これを見て 「こうだった、なつかしい!」と一気に感動的な思いにひたる親も少なくないはず。なぜなら、そのおくるみはいつも、誰もが知っている白地に青とストライプのタオルだからです。
なぜ、おくるみといえば同じタオルのイメージを皆持つのでしょうか?実はこのおくるみはイリノイ州に本社のあるメーカーで作られているもので、年間約1,500万枚生産され、全米の病院で広く使われているからだと推測されます。メーカー側の積極的なプロモーションの結果でありませんが、上述のようにメディアで頻繁に使用されることに加え、生まれたての赤ちゃんの写真をSNSでアップする文化によって、すっかり定番イメージのものとなっています。
病院から1枚持ち帰ってへその緒と一緒に大切に保管しているというママもいますが、通信販売でも購入が可能であるため、出産時の感動を思い起こすためにプレゼントにする人もいることでしょう。
<出典>
Why every newborn you see on Facebook is wrapped in the same baby blanket
以上、全米で人気を博すベビーグッズプロモーション事例を紐解くと、①親たちを応援する親しみやすい企業イメージを打ち出す、②産後、最初に手にして使ってもらう、③メディアやSNSでの拡散を想定した印象作りが、ベビーグッズ販売を成功に導く秘訣と言えると思います。SNSの普及などにより情報過多な時代、育児に期待や不安、そして迷いを抱えるママたちに優しく寄り添い、感動体験を生み出すことが、ママたちの心を引きつける一歩なのではないでしょうか。