2019年のグローバルデジタルサイネージ賞を獲得したカナダの食料品店「IGA」のキオスクシステム「Live Harvesting」。野菜売り場に設置された「デジタルサイネージ」で注文をすると、スーパー屋上で育てられた野菜を収穫する様子がリアルタイムで映し出され、その野菜が店内の買い物客に手渡されるという画期的なサービスです。今回は、IGAの共同経営者であるリチャード氏へのインタビューを通し、1年で20%の売上増を達成した「体験型デジタルサイネージ」の効果について、その発想とユーザーエクスペリエンスの観点から分析します。

屋上菜園の出現とビジネスチャンス

2017年の夏に出現したIGAの屋上菜園、その契機となったのはモントリオール市の条例、「食料品店の屋上スペースの50%をグリーンスペースにすること」が決定されたことでした。リチャード氏はこれを新たなビジネスチャンスと捉え、カナダでは最大規模となる約2300㎡の屋上有機菜園を作り上げたそうです。航空写真で見ると一目瞭然なのですが、野菜はスーパーのロゴ『IGA』を形づくって植えられ、近くのモントリオール空港を発着する飛行機の乗客向けにPRも兼ねられています。

この屋上菜園では、野菜・果物・生花を含む30種類以上の栽培と養蜂箱を8つ備え、養蜂箱からも年間約600瓶分の蜂蜜が生産されています。また、これらの商品には「Frais du Toit(屋上の新鮮さ)」というフランス語の商標がつき、店内の「Frais du Toit」コーナーで、「Frais du Toit」のタグやシールが貼られ販売されています。

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鮮度の「見える化」でユーザーエクスペリエンスを高める

賞を獲得するほど、このデジタルサイネージが話題となった理由はいったい何でしょうか。その一つとして、「鮮度」という概念を見える・体験できる形にしたことが挙げられます。例えば、目の前に並ぶトマトが1日前の収穫か1時間前のものなのか、一般の買い物客が鮮度を判断するのは容易ではありません。しかし、デジタルサイネージの利用で注文から10分以内に野菜が手元に届くため、誰もが手軽に究極の新鮮さを手に入れられるようになります。

リチャード氏によれば、屋上野菜の販売を始めた2017年「本当に屋上野菜を売っているのか」と疑問視する声があがり、店内の大型スクリーンでその様子をリアルタイムで流していたとのこと。ただし、当時の販売方法は収穫済みの屋上野菜を売り場に並べ、それを買い物客が購入するスタイルでした。その後2年目となった昨年の夏、都会の真ん中でも、誰もが簡単に獲れたての野菜を購入できるシステムを作りたいという店舗側の思いで、屋上菜園のライブ配信と商品購入が可能な「Live Harvesting」が導入されたのです。

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リチャード氏によれば、屋上野菜の販売を始めた2017年「本当に屋上野菜を売っているのか」と疑問視する声があがり、店内の大型スクリーンでその様子をリアルタイムで流していたとのこと。ただし、当時の販売方法は収穫済みの屋上野菜を売り場に並べ、それを買い物客が購入するスタイルでした。その後2年目となった昨年の夏、都会の真ん中でも、誰もが簡単に獲れたての野菜を購入できるシステムを作りたいという店舗側の思いで、屋上菜園のライブ配信と商品購入が可能な「Live Harvesting」が導入されたのです。

このように都会に住む買い物客が、まるで「隣に広がった農家の畑から直接野菜を購入する」かのような、高いユーザーエクスペリエンスを作り出せたことが、このデジタルサイネージを成功に導いた一因と言えるでしょう。

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デジタルサイネージが生み出す「希少性」

デジタルサイネージはデータを変えれば様々な情報が発信できるので、年間を通して、商品プロモーションや店内イベントに合わせた多様な利用ができるのもメリットです。けれども「Live Harvesting」は、鮮度を売りにした「Frais du Toit」商品に特化した販促ツールのため、利用時間や期間が限られています。

例えば、新鮮な野菜の提供には太陽の影響が少ない午前中の収穫が必要なため、デジタルサイネージの利用は朝8~12時までとなっています。さらに、モントリオールは冬が長いので夏季限定の利用となり、他の期間は片付けられているそうです。一見すると、もったいないと思える使い方ですが、これは「いつでも買える」便利さではなく、「今しか買えない」という「希少価値」の創出を重視したと言えます。

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デジタルサイネージの導入によって、屋上野菜の売り上げは2割増加したそうです。けれども、購入の9割以上はデジタルサイネージからではなく、店内に置かれた収穫済みのものです。つまり、これはデジタルサイネージによる購入者の増加で売り上げが伸びたのではなく、そこから買える「選択肢」を店内に設けたことによって、ユーザーエクスペリエンスの拡大と希少性が生まれ、屋上野菜全体に対する購買意欲が高まったと考えられます。

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「ツール」としての価値を拡げ、潜在客の獲得を促進

IGAのケースは、デジタルサイネージを店頭販促のツールとして設置しただけではありません。その存在自体をYouTubeや自社のホームページで配信することで、「集客ツール」として機能した例でもあります。YouTubeで3.7万回再生されたIGAの動画では、スクリーンで注文すると屋上のスタッフが画面に登場し挨拶、その後、野菜の収穫される様子が映し出され、そのスタッフが買い物客に収穫した野菜を手渡します。これは隠しカメラを使って撮影されたそうですが、買い物客の不思議がる様子がリアルに映し出され、驚きと感嘆に満ちたプロモーションビデオとなっています。

また、IGAのFacebookInstagramでは、その日の収穫野菜の情報が写真付きで掲載され、例えば、YouTubeを見て店舗に興味を持った人がSNSを通し、より詳細な情報を得られるようになっています。リチャード氏によれば、他にはない「屋上野菜」という商品を斬新な方法で販売することによって既存客の枠を越えた話題性を獲得し、他店の新規客も増え、店内は以前より賑わっているとのことでした。これは、デジタルサイネージの存在を集客ツールとしても活用し、潜在客に向けた意識的な発信で、新顧客の獲得に成功した事例とも取れます。

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新たな販促ツールの模索に向けて

今回、カナダで話題のデジタルサイネージによる最新の販促・集客方法をご紹介しました。IGAのインタビューを通じ感じたのは、「Live Harvesting」導入背景には、顧客が求めるものへ応えようとするオーナーの真摯な姿勢と、そのための最適なツールがデジタルサイネージであったということです。

また、このようなクリエイティブな販促・集客方法は「店舗側のアイディアのみならず、菜園担当の農家や広告会社、IGA本部のマーケティング担当者がそれぞれの専門性を活かして、チームとして意見と話し合いを重ねた結果生まれた」という話も印象的でした。現在は、夏に向けて新たな販促方法を思案中で、その一つに顧客自身が野菜を収穫できるよう考えているそうです。すでに顧客向けの屋上ツアーも始まり、これからデジタルサイネージが販促・集客戦略においてどのように使われていくか、今後の展開が注目されます。

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[参考記事]


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