自分の好きなブランドの新商品の情報は、ファンにとってウキウキするとびきりのものですよね。そして、それがもし「極秘」情報だったらどうでしょう。周りの人々に思わず自慢したくなりませんか? 今回ご紹介するのは、クリスピークリーム社が英国で行ったプロモーション事例です。消費者に「うっかり」漏らした新商品の情報が、あっという間に拡散され、結果として絶妙なプロモーションとなるまでの過程を見てみましょう。

店長宛ての機密文書が……

ことの始まりは、2016年5月5日に、クリスピークリームの店長宛てとみられる正式文書が社外の人々にEメールで送られてしまった事件。その文書には2016年5月27日に新発売となる「ヌテラ入りのドーナツ」に関する内部情報が記載されていました。
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興味深いのは、このメールを受け取った人々には「リコール(削除要請)」がかけられたこと。あたかも、本来は漏らしてはいけない情報が含まれたメールが部外者に送られ、それに気がついたクリスピークリームが慌ててその情報を回収しようとしたかのように見えます。

「機密情報なのでシェアしない」とわざわざ明記

では、今回の情報漏えいは果たして事故だったのでしょうか?
本件に関して多くの記事がオンライン上に掲載されていますが、その多くは「すばらしいプロモーションだ」と褒める内容。「情報漏えいではなくプロモーションだ」と人々に感じさせたポイントとは、一体何だったのでしょう。

  1. 1.今回漏えいした書類には、わざわざ「これは機密情報なので、ソーシャルネットワークでシェアしたり、店舗でこの内容について客と話したりしないこと」と明記されています。ただの注意書きにも見えますが、どちらかというと情報拡散を促す、戦略に感じられるのではないでしょうか。もちろんこの文書を入手した一般消費者は、TwitterやFacebookでこの書類を次々とシェア。同日の午後には英国内のTwitterのトレンドワードとして認識されるほどに効果を発揮したのです。
  2. 2.「エキストリーム・ファン(熱狂的ファン)に注意」という項目も、実にユーモラスに書かれています。「販売前のテストによると、ヌテラ入りクリスピークリームドーナツを食べたファンのなかには興奮状態に陥る人もいました。こういった症状は店舗でも見られる可能性があるので、心しておくようにしましょう。」と書かれ、その下には「気絶」「大量のよだれ」「興奮しすぎ」などの症状に関する解説も。ファンが読んだら、ますます新商品への興味が高まってしまう内容です。

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International Business Times社が英国クリスピークリーム社に今回の「プロモーション」に関しての問い合わせを行いましたが、クリスピークリーム社側の回答は「あくまでも内部向けの情報であって、こういった形で新商品の情報が発表されたことはミスであった」という内容。果たして真実はどちらなのでしょうか……。

自動販売機の発表でさらに話題性アップ

Times社のサイトによると、クリスピークリームはこの一連の騒ぎの翌日、2016年5月6日に、新商品に関する新たな情報をタイムリーに発表しています。その内容は、2016年5月9日~5月21日の間、ロンドンのHolborn Tube駅前のクリスピークリーム店に、期間限定で新商品を購入できる自動販売機が設置されるというもの。そしてその収益はTeenage Cancer Trust(小児がん患者の支援基金)に募金される予定となっています。

話題性が高まるなか、「ドーナツの自動販売機」というさらに人々の興味を引きそうなニュースを追加することで、マーケティング効果の高いプロモーションとなっています。実際に設置された自動販売機の模様を捉えた動画がこちらです。

駅前に設置された自動販売機の前にはクリスピークリーム社のスタッフの姿。人々は自動販売機の前で写真を撮ったり、ドーナツが自動販売機から出てくる様子を動画に収めたりしているようです。こうやって撮影された写真や動画がまた拡散され、新たな宣伝効果につながっていくことでしょう。

プロモーションの成功に欠かせない「話題づくり」。今回の「漏えい」が果たしてマーケティング戦略だったのか、それとも本当にミスだったのかは謎に包まれたままですが、新商品発売前のプロモーションとして、人々の興味をぐっと引きつけることに成功したようです。いつもと違う……他社とは違う……そういった消費者の話題となる「あっ」と驚くプロモーションを、どんどん仕掛けていきましょう。

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