「アカウントベースドマーケティング」を成功させる3つのポイント - 株式会社セールスフォース・ドットコム インタビュー

共同印刷は昨年120周年を迎えた、歴史ある会社です。
印刷業は受注型産業のため、これまでの営業活動は「引き合いベース」が基本でした。

しかし、テクノロジーの発達により、マーケティングも目覚ましい勢いで日々変化しています。時代や顧客ニーズに対応するためには、私たちの営業スタイルを変えていく必要があります。

そこで、『Hint Clip』を運営する当プロモーションメディア事業部は2017年4月にSalesforceの営業支援システム(SFA)を導入。今年6月には同社のマーケティングオートメーションPardotを導入し、BtoBマーケティングの体系化・運用に力を入れています。

今回は究極のBtoBマーケティングと言われるABM(アカウントベースドマーケティング)の手法とそのメリットについて、株式会社セールスフォース・ドットコムのマーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャー 秋津 望歩さまにお話を伺いました。

Q. “新しいようで古い”ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?

秋津さま:5~10年くらい前は、リード(人)というシングルポイントをベースとしたマーケティングが主流でした。それに対しABMは、お客さま=取引先という“面”を狙っていこうという考え方だと捉えています。

これまでは行くべき人のところに行けば簡単にモノが売れていました。いろんなソリューションがあり比較はするものの、結局は担当営業が足を運んで懇切丁寧にサポートするのが当たり前で、人間関係を元にした引き合いベースで売れていました。

インターネットやモバイルの発達により、お客さま自身がインターネットを活用して調べ(検索)、ある程度の比較検討はできるようになりました。

ただ、簡単な買い物はまだしも、複雑なソリューションになると、やはり一人で決断を下すことは難しい。購買には、経営企画や経理など、複数の部署の人間が関わる必要があります。売る側も同様です。

ソリューションが複雑になり、売る側も買う側も一人で全てのプロセスをカバーすることができなくなりました。つまり、複数の意思決定者を抑える必要が出てきたということです。

よって営業も一人では対応しきれず、面VS面で売る側も買う側も相対する必要がでてきました。複数VS複数で販売と購買が行われるようになったというのが、ABMが重要視されるようになった一番の理由だと考えています。

神:当社の営業はまだまだ1対1の部分が多いという気がしますが、「面VS面の営業活動」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

秋津さま:これまでの営業は、商品やサービスの機能やスペックを上手く語ることができればある程度の売り上げが見込めました。お客さまに知識がなく、調べる手段もないので、検討が進み、意思決定、導入ができていました。しかし、今のお客さまは違います。

何が競合で、どんな機能が自社に必要なのかなど、自分で調べられます。情報という大きな武器を持っているんですね。そうなると営業は機能説明をしているだけでは売れません。お客さまを面で押さえるという言葉の裏側には、購買活動が1対1で完結できなくなったということがあります。

特に日本はボトムアップで意思決定が行われる企業が多く、例えば、「営業部長が課長に新しいシステムを調べろと指示し、課長は調査結果を部長に報告。部長はそれが金銭的に問題ないかを財務や経営管理に相談し、販売後の顧客サポートをサービス部門に相談…」というような具合です。

営業の部門長でも、例えば弊社でも「Pardot」の導入決断を1人でするのは難しくなりました。最終的に多くの人に相談して意思決定するようになったということです。

意思決定に関わる人数は増えていると言われていて、アメリカの調査では、去年まで5.4人だったのが、今年は6.8人です。

トップダウン形式のアメリカでBtoBの購買意思決定にそれだけの人数が関わっていますので、日本ではもっとだと思います。複数の人が比較検討し、それらを統合したうえで意思決定するので、導入まで半年かかるというのも稀ではありません。

また、売る側の営業が複数の複雑なサービスを売らなくてはいけなくなりました。しかし、例えば共同印刷さまなら、印刷に精通した人がイベントやプロモーションにも詳しいかというと、必ずしもそうではないと思います。

お客さまが求められる複数のものを営業が用意する必要があるので、社内でいろんな人に相談したり調整したりする必要がでてきたというのが売る側の「面」ということになると思います。

神:ABMをする側の企業のアプローチとして、フロント営業のみならず複数の人が各々の担当分野で関わるということですね。

秋津さま:これまでは見込み客の発掘から売った後のフォローまで、営業が一人ですべてを担う企業がほとんどだったと思いますが、最近は貴社のようにそれぞれの専門家で分業体制をとる企業が増えてきました。

見込み客を発掘をする人、アプローチする人、フォローする人…というように、お客さまに対して複数の人が関わっていきます。
そのため、情報共有のプラットフォームが必要となります。

リレーのバトンをどんどん渡していくのに、口頭で伝えるだけでは絶対に話は変わってきます。「いつ・どこで・誰が・誰に・どんなアプローチをしたか」をすべて残す必要があるのです。ABMを行うに当たっては、情報共有をする基盤がとても重要となります。

神:ABMが「新しいようで古い」と言われる意味がわかりました。これまで営業が一人で行ってきたことを、きちんと体系立てて組織全体で戦略的に売っていこうということですね。

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Q.SalesforceがABM(アカウントベースドマーケティング)に注目した理由とは?Einstainを開発した理由は?

秋津さま:これについては「なぜSalesforceがABMに取り組むのか」と「なぜPardotなのか」の2つに分けてお話しします。

まず、前者ですと、ABMよりABSM(アカウントベースドセールス&マーケティング)と表すのが実情に合っていると思いますが、これは営業1人で完結するものではなく、複数部門の担当者が関わります。

複数の人が関わって得た情報を統合したものがCRMとなります。ABM(アカウントベースドマーケティング)のストラテジー(戦略)を立てるうえで、どこを攻めるか(ターゲティング)を決めるためににCRMが必要であるとセールスフォースでは考えています。

何も情報がないところでABMに取り組もうと思っても成り立ちません。例えば、各営業が顧客リストを個別にエクセル管理していたり、日報は別のシステムで入力していたりと、情報が点在している状態ではABMをやる準備ができているとは言えません。

それらを一つにまとめられるのがSalesforceです。弊社はグローバルでビジネスをしており、ABMを始めるために必要な全ての情報を取り込むことができるCRMを提供できるという点がABMを推進する1つの理由です。

次に、なぜPardotかという点です。PardotはSalesforceと唯一ネイティブでつながっているマーケティングオートメーションツールになります。

これからはSales CloudとSalesforceのAI(人工知能)レイヤーであるEinsteinとの連携も強くなっていきますので、AIに顧客情報を学習させることで、今どのお客さまを攻めていくべきなのか、どの案件に対してフォローアップをすべきなのかといった情報も得られるようになります。

Salesforce、そしてPardotを選択することで、AIの恩恵を受けられるようになるというのも大きいと思っています。

神:弊社もセールスフォースやPardotを導入していますが、私たちの部隊がまさにABMに近い取り組みをしているのかなと思います。ABMに取り組む際に重要なポイントを教えて下さい。

秋津さま:ABMを始めるのにも準備が必要です。そのなかで特に重要だと考えていることを3点お伝えします。

1点目は、データを一つの場所に集めることです。
日本の会社は社名一つとっても、漢字、平仮名、カタカナ、英語…と、データのクレンジング(名寄せ)がとても大変です。

どのお客さまを、またはどの事業部のどの担当者を攻めるというように、ブレイクダウンして考えていく上でも、データを1か所に集約することが重要になってきます。

皆さんの会社にも相当量の情報があると思いますが、それらがバラバラになっているが故に、多くの企業が情報をうまく使えていません。情報を資産としてうまく活用できていない場合が多くあります。まずは、今ある情報を一か所に集めることが一番重要だと思います。

神:情報を一つに統合する作業は、実際取り組むとなるととても難しいと感じます。そこを乗り越えるコツはありますか。

秋津さま:確かに仰る通りで、日本の会社はさまざまな媒体やフォーマットで情報を管理していることが多く、過去のデータだけでも膨大だと思います。

どういうデータが自社にとって必要なのかをまず精査した上でデータを登録すべきです。各社のニーズや指標は、Webサイト、電話番号、従業員数、営業活動の定義など異なると思います。

神:欲張りになるといいますか、どうしてもいろいろな情報を取得したくなりがちです。「定義」はシンプルが一番でしょうか。

秋津さま:はじめはシンプルに始めていただき、利便性をあげながら必要に応じて項目を増やすのが成功への近道です。どうしてもたくさんの情報を取得するための項目を設けてしまいがちです。必須項目とオプション項目で分けるのも良いと考えます。

例えばプリンターの販売メーカーの場合、必須項目は相手先の従業員数ではなく、フロア数だったりします。業種によって売り上げのカギとなる項目は異なりますから、それらを必須項目にするといいのではないでしょうか。

また弊社のCSG(カスタマーサクセス部)でよく見る失敗ケースとして、「なんでも揃えようとして一気にやること」だとお伝えしています。営業は日々の活動ですから、PDCAを回しながら都度カスタマイズするのがいいでしょう。

定着化には3つ方法があります。

1.トップダウン。トップの方から強制的に入力をさせる方法ですが、効果は短期的です。
2.インセンティブを与える。入力してくれた人に対して褒賞を与えるのです。
3.入力によって得られる恩恵を皆に感じさせることです。

つまり、入力側が「この情報があると便利」と感じる項目を設定すれば、自然と入力してくれることにつながると思います。

ABMを始めるのに必要な準備の2点目は、ターゲティングを正確に行うことです。
ABMを実現したいと思うお客さまは、「いつまでに、いくら売り上げを上げなくてはならない」や「このソリューションのシェアを○%にしなくてはならない」といった数値目標を持たれているでしょう。

しかし、目標をどう達成するのかという戦略にまでブレイクダウンできていない場合も多いように思います。戦略を立てるポイントは、先に挙げた「データの統合」と、「そのデータを元に正確なターゲティングをする」ことです。

ターゲット設定にあたっては、「売り上げのメインになっているお客さまはどこか」また、「売り上げの多くを形成しているお客さまの共通点は何か」という話をよくさせていただきます。

「規模や業種、エリアなどの共通点をきちんと把握しているか」ということです。
一般的に、上位20%が企業の売り上げの80%を構成していると言われています(2:8の法則)。アメリカでも同様にIceberg Analysisのことを言っています。

まず、上位20%の共通点を探すことを勧めています。
どう攻めるかを考えるのは、次のステップです。
どこを狙うのかが決まらなければ、どう攻めるかは決まりません。

3点目は、マーケティングとセールスをしっかり連携させることです。
よくマーケとセールスには溝があると言われますが、例えば「リードの数」「リードの質」のように、目標が一致しないことがあるからだと思います。どの会社さんにもあることではないでしょうか。

「リードからどれだけ新規受注につながったのか」「営業が全然新規にいかない」といった話もよくあるかと思いますが、それはマーケティングが獲得したリードをセールスがクローズしたかを追う仕組みがないからという場合がほとんどです。

マーケティングが展示会で獲得した100件のリードをリスト化し、営業に「よろしく!」と渡しても、そのエクセルは空欄のまま…というのはよくある話です。

マーケの「営業が動いてくれない」、営業の「リードの質が悪い」。そうした永遠に解決しない議論を、CRMの仕組みでしっかりトラッキングし可視化できれば、両者の溝は埋まっていきます。

マーケと営業がうまくやっていくためにも、情報基盤が大切になってきます。
同じ情報を見ながら同じ方向を向いて取り組んでいくことが重要です。

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Q.ABM(アカウントベースドマーケティング)導入で得られる効果は?

秋津さま:狙ったお客さま(2:8の法則で言う20%)を獲得していけることだと思います。

これまでの方法では、広く餌をばらまいて、食いついたところを獲得するという手法がほとんどでした。しかし、ABMは皆さんが狙ったお客さまから課題を引き出していくことができます。

また、継続して売り上げをアップできるような社内の体制やお客さまとのリレーションもすべてCRMに蓄積されていきます。そうした情報が蓄積されればされるほど資産につながっていくと考えています。

ABMとリードベースドマーケティング(以下:LBM)の比較をすると、案件の中身、受注確度がくなることがわかっています。LBMはたくさんのリードを獲得できますが、そこから受注につながるCVRが低い傾向にあります。

ABMは、狙ったお客さまが興味のあるコンテンツを提供しているので、数としては少なくなりますが受注確度は高まります。そのため、計画的な販売が可能になります。お客さまが欲しいタイミングで製品を提供できる環境が築けるようになる、ということです。

まとめると「狙ったお客さまにアプローチができ、稼ぐための基盤ができる」こと、そして「案件の質が高まる」という2つの効果が大きいと思っています。

神:受注後もずっとトラッキングできるということですね。

秋津さま:そうですね。「次のアプローチのタイミングは5年後かな」など、これまで営業が過去の経験則や感覚で判断していたことをデジタルで追うことで、受注後も適切なタイミングでアプローチできるようになっていきます。

神:そうなると「営業力」のボトムアップにも期待ができそうですね。

秋津さま:その通りです。CRMの大きいメリットとして、「ベテラン営業の勘や経験」に頼っていた部分が、データで管理できることが挙げられます。

さまざまな指標で取りたい軸を取れるので、自分で分析を深めて営業に指示を出すこともできますし、営業自身が介在することもできるようになります。営業スキルの底上げ、ボトムアップにつながると思います。

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Q.Salesforce社が考える今後のABM(アカウントベースドマーケティング)とは?

秋津さま:皆さまにまず考えて頂きたいことは、先ほど申し上げた3点です。
まずは情報を1つの基盤に入れること。CRMが必要です。それがあることで必要なメンバーがCRMの上でつながることができます。

それができた後は、前後や横の展開をしていただきたいです。
例えば、最近はBtoBとBtoCの垣根はなくなりつつあります。

Web広告やSNSを運用し顧客とマルチチャネルでフック繋がりたいしたいというニーズはBtoCではよくあったと思いますが、最近ではBtoBでもニーズが増えています。今後は企業としてお客さまと色々なチャネル、接点を持てるようにしていっていただきたいなと思います。

もう一つはAIの部分です。
営業が使うAIのSales Cloud Einsteinは昨年から販売していますが、今後はお客さまのより細かい行動をAIが学習して、今フォローが必要なお客さまを教えてくれるようになります。

営業の経験と感覚、ベテランの知識といった人力でカバーしていた部分を、経験が浅い社員でもきちんとタイミングを把握してアプローチできるようになるのです。デジタルの技術を取り入れることで、より短時間で効率よく働けるようになっていくのではと考えています。

最近インサイドセールスが流行っていますが、まだまだその部隊を持っていない企業も多いです。そういった時にもAIは活用できると考えています。

■編集後記

ABMは、これまでの属人的な営業とは異なる、組織横断型の取り組みです。
そのため、各々が保有している情報を一つに集約し共有できるプラットフォームの存在がとても重要となります。

これまでの属人的な営業スタイルを変えていくことは簡単ではありませんが、蓄積してきた情報の価値を高める意味でも、積極的に取り組んでいきたいテーマです。

今後はAIのようなデジタルテクノロジーの力も借りながら、より一層パーソナライズされたマーケティングも行えるようになるでしょう。新しいマーケティング手法はもちろん、顧客との関係構築やアプローチ方法など最新の情報を取り入れながら、自社の売上最大化を考えていきたいものです。

●株式会社セールスフォース・ドットコムHP:https://www.salesforce.com/jp/

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