2020年のオリンピックを控え、訪日外国人のさらなる増加が見込まれています。そのようななか、多くの企業が「インバウンド対応」と「省人化」に頭を悩ませています。
こうした課題に対し、大手化粧品・健康食品メーカーのファンケルはタブレットによる『接客アプリ』を導入し、インバウンド客へのわかりやすい説明や接客時間の短縮を実現しました。導入に至った経緯や導入後の効果、今後の展開などについて、株式会社ファンケル 店舗営業本部 店舗販売企画部 販売企画グループ 馬 玉シュ (マ ユシュ)さまと荒木 雄介さまにお話を伺いました。
(写真:左から共同印刷 菊地、青木、株式会社ファンケル 馬さま、荒木さま)
店舗スタッフの補助ツールとして、タブレットの「接客アプリ」を導入
共同印刷 青木:ファンケルさまには、インバウンドに対する接客補助を目的に、当社の「接客アプリ」を店舗に導入いただきました。まずは導入の背景や目的をお聞かせください。
ファンケル 馬さま:年々増加する来日観光客のなかでも、特に中国・アジア系の中国語と英語を話すお客さまの来店が増えています。ファンケルは中国・香港・台湾・シンガポールに出店しており、アジアを中心に認知度も人気も高いブランドになっています。インバウンドのお客さまは、数年前まで、東京と大阪を中心に来店されることが多かったのですが、この2~3年で全国200以上の店舗のうち半数を超える店舗で、毎日インバウンドのお客さまを迎えるようになりました。
中国語や英語を話せるスタッフはまだ多くありません。外国からのお客さまによりスムーズに商品をご案内できるようにしたいと考え、「接客アプリ」を導入しました。“言葉が通じなくても、お客さまに自分に合う商品を選んでいただきたい”というのも導入目的の一つです。
ファンケル 荒木さま:2020年のオリンピックの開催時期には、今までインバウンド需要がなかった店舗にも、外国からのお客さまが来店されることが考えられます。そのときに、しっかりと取りこぼしなくセルフでご案内できるようにすることが大きな目的です。
また、インバウンド需要の高い店舗では、外国からのお客さまの接客にかなりの時間を要し、日本人に対して十分なご案内ができなくなることもありました。
こうした課題に対し、「接客アプリ」を活用して外国からのお客さまをセルフなどでなるべく効率よくご案内し、日本人のお客さまのご案内にもきちんと時間を使える環境づくりをしています。
スタッフによるカウンセリングやメイクなど、店舗に来店する意味をお客さまが見出してくれなければ、店舗が存在する意味はなくなってしまいます。
“店舗だからこそできること”や“顧客関係性の強化”は、継続的に考えていかなくてはならない部分だと思っています。
「一画面でパッとわかる」ことを意識した、アプリのコンテンツ設計
共同印刷 青木:アプリのコンテンツ設計には時間がかかりました。一番意識した点や苦労した点を教えてください。
ファンケル 馬さま:私自身店舗で長年接客を経験してきましたが、外国のお客さまから商品について「必ず聞かれること」や私たちから「必ず伝えたいこと」があります。例えば、商品の金額や量、商品の特徴や使用方法です。こうしたたくさんの情報をできるだけ一画面に納め、パッと見てわかりやすい設計にすることを特に意識しました。
また商品一覧では、どの商品を一番上に配置するか、数量限定の商品などお客さまに伝えたい情報をどのように配置するか、とても悩みました。そして、スタッフはもちろん、お客さまの操作性にもこだわりました。
共同印刷 青木:商品一覧の配置はこだわりましたね。完成した画面をイメージされるのが難しいようでしたので、私たちはできるだけわかりやすいアウトプットを心がけました。ほかに苦労された点はありますか。
ファンケル 荒木さま:化粧品を「お客さまの悩み」で階層分けしたところですね。日本人と外国人とでは感覚の違いがあるため、“どうくくるのか”が難しかったです。
共同印刷 菊地:例えば、日本人と中国人とでは、どういった感覚の違いがありますか。
ファンケル 馬さま:ファンケルでは、基礎となる保湿化粧液と乳液の後、プラスアルファのケアとして美白美容液を使います。この“重ねて使うケア”を日本人のお客さまはすんなり受け入れられますが、中国の方は少し煩雑に感じられるようです。プラスアルファのケアとして美白美容液を提案するのではなく、すべての美白ケア商品をまとめて教えてほしいというご要望が多いですね。せっかく日本に来たのだから、全部教えてほしいという気持ちが強いのかもしれません。
共同印刷 菊地:接客アプリには、そうしたフルコースのUIが求められているのですね。
ファンケル 馬さま:そうですね。肌悩み提案については、メイク落としから洗顔、スキンケア、スペシャルケアまでの全ステップを各ページに入れるようにしています。
(中国人のニーズに合わせ、一画面で必要な情報を伝えられるUIにこだわった)
接客時間の短縮が実現!商品説明の一画面で、疑問はほぼ解消
共同印刷 青木:導入してまだ日が浅いですが、店舗スタッフの皆さまの反応はいかがですか。
ファンケル 馬さま:今年の2月中旬に導入し、約1カ月後に店舗にアンケートを行いました。とても好評で、当初は約200店舗中、インバウンド強化店舗約70店舗のみへの導入でしたが、今では全店舗に導入しています。使用率は60%くらいで、使用している店舗は、ほぼ毎日使っています。1日に使用する回数は、多い店舗で20回以上、少ない店舗で1~3回くらいです。
共同印刷 青木:接客アプリは、販売員の方が接客のサポートとして使うケースが多いのでしょうか。
ファンケル 馬さま:はい。接客のサポートとして、主にカウンセリングで使われることが多いです。店舗には翻訳機が導入されていますが、健康食品や化粧品の説明には専門用語が多くお客さまに伝わりにくいため、商品の違いを伝えたいときには、接客アプリを見せながら説明しています。その後は、お客さまがご自身で操作しながら興味があるものをご覧になるパターンが一番多いですね。
共同印刷 青木:お客さま自らが接客アプリを使われる割合はどのくらいでしょうか。
ファンケル 荒木さま:感触としては、スタッフ7割、お客さま3割です。一般的に、店舗ではあまり見かけないものだと思いますので、お客さまがセルフで使用されるには少しハードルが高いと感じています。もともと、スタッフとお客さまのどちらか一方に寄せず、汎用性のあるツールとして開発しています。
共同印刷 菊地:店舗スタッフからの高評価はなぜだとお考えですか。
ファンケル 荒木さま:化粧品は外国の方にニュアンスをお伝えするのがかなり難しく、翻訳機で日本語を直訳しても伝わりません。この接客アプリはニュアンスまで翻訳して画面に反映しているので、外国からのお客さまも納得してくださるのだと思います。
また、翻訳機だと一問一答で終わってしまい、1商品ごとに説明が1~2分ほどかかります。接客アプリは画面を見せて10秒ほどですべてをご案内でき、時間が短縮できます。そうした点も、スタッフから受け入れられているのだと思います。
ファンケル 馬さま:翻訳機ではお客さまとのコミュニケーションにタイムラグが発生してしまいます。そのため、まずアプリで商品説明の画面を見ていただいた後、不明点があれば一問一答で対応するようにしています。嬉しいことに、スタッフからは「アプリで商品説明の画面を見せれば、ほとんどが解決できる」という報告を受けています。
「課題」を見つけられないことが課題!今後は日本人向けコンテンツも検討
共同印刷 青木:よい反応が多いということで、私たちもとても嬉しいです。逆に今、課題に感じられていることはありますか。
ファンケル 荒木さま:現状、「課題」という課題を見つけられないのが課題ですね(笑)。あくまでも、ベースを整える時期という認識で取り組んでいましたので、そこでネガティブな声がないというのはベースが整ったという証明だと思っています。これからコンテンツの拡充など、プラスアルファの部分に取り組んでいこうと思っています。
共同印刷 青木:どんなプラスアルファを考えられていますか。
ファンケル 馬さま:もともと接客アプリはインバウンドのお客さま向けに開発しましたが、今後は日本人のお客さま向けとしても展開していきたいです。例えば、動画を日本語版と中国語版の両方入れておき、日本人のお客さまが来店されたら日本語版が流れ、中国のお客さまの場合は中国語版が流れるといったことができればと思っています。
共同印刷 青木:コンテンツについて、今後追加したいものはありますか。
ファンケル 馬さま:言語や動画は追加していきたいです。特に、「お悩みのカウンセリング動画」を作りたいですね。自分の肌悩みがいまいちわかっていない方々に「シミはどういう風にできるのか」をアニメーションで示したり、ゲーム感覚でタッチして操作していただいたりしながら、美容・健康意識を高めるコンテンツも面白そうです。
ファンケル 荒木さま:些細な工夫かもしれないですが、もう少し、外国からのお客さまにスムーズに触っていただけるような仕掛けも大切だなと思っています。例えば、待機画面でアニメーションがずっと流れているなど…
共同印刷 菊地:そうですね。おっしゃるように、店頭に設置されているタブレットを自ら触るという人はまだまだ少ないと感じます。その障壁を超えられるような工夫はできると思います。
■共同印刷に期待すること「今後も“一緒に創っていく”姿勢を続けてほしい」
共同印刷 青木:最後に、「共同印刷に期待すること」はなんでしょうか。
ファンケル 荒木さま:この接客アプリのアイデアは、青木さんとの何気ない会話のなかから生まれたものです。外国人への接客に限らず、販促について話をしていた際に「こんなのあったらいいですよね」と盛り上がったのがきっかけです。今回のようにこれからも“一緒に何かを創っていく”という姿勢を続けていただきたいですね!
接客アプリにより、外国からのお客さまへの商品理解を促し、接客時間の短縮という成果につなげることができました。店舗だからこそできる“顧客体験”を念頭に、今後もファンケルさまと一緒に、新しくて面白いコンテンツを創り出したいと思います。
共同印刷株式会社
プロモーションメディア事業部
青木 慶
2013年入社。入社から3年間大手広告代理店の営業を担当。2016年より株式会社ファンケルを担当し、販促プロモーションの企画立案からツールのデザイン制作、製造まで幅広く活動を行っている。
共同印刷株式会社
プロモーションメディア事業部
菊地 祐樹
2009年入社。WEB・スマートフォンアプリなどの設計・制作・運用を様々な業種でディレクションを行う。
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