先進国の中でも、高い水準で合計特殊出生率を維持しているオーストラリア。2015年のデータによると、オーストラリアの出生率は1.89! 日本の1.43と比較しても高いことは一目瞭然です。この要因には、オーストラリアの充実した少子化対策が挙げられます。政府による対策として、無料で出産できることはもちろん、子ども手当に加えて養育する家族のための手当や、パパやパートナーの育児手当「Dad and Partner Pay」、託児費用の払い戻しなど、システムが充実しています。民間企業においても、ママはもちろんパパのための育児休暇制度や、従業員の家族を招待して旅行やパーティーを開催する家族感謝の日「Family Funday」制度を取り入れるなど、子育て世代に優しい環境を整えている企業が多いです。これは、「家族の協力あっての仕事」という概念が根づいているオーストラリアならではの特徴と言えるでしょう。
そもそもオーストラリアでは、できるだけ家族と過ごすことが重視され、パパの育児参加率は非常に高い傾向にあります。平日昼間に行われる学校行事でも、3割~5割はパパが参加しています。前述のような様々な制度は高い出世率維持だけでなく、パパに育児をするための時間や余裕を与えてくれるのに一役買っていることに違いありません。しかし、パパの育児参加率が高い理由はそれだけでしょうか? 実はそこには、パパが育児をしたくなるような、企業や民間団体によるあるプロモーション活動があります。今回は、パパの育児参加を後押ししているプロモーション事例を紹介します。
■1、人気リゾート地、ハミルトン島のプロモーション「パパと赤ちゃんの初めての旅行」
育児に積極的なオージーパパですが、子どもの身の回りのものや必要なものの準備はやっぱりママに頼りがち。そんな育児初心者のパパに向けて展開された人気リゾート地・ハミルトン島のプロモーションでは、オムツや粉ミルク、離乳食などの子どもの食事、バウンサー、ベビーカーなど、赤ちゃんに必要なすべてのサービスを提供していることをアピール。パパになって初めての旅行を万全のサポート体制の下、リラックスして楽しむことができるとは、特に新米パパにはうれしいサービスです。Webサイトにはパパと男の子がビーチで楽しんでいる写真とともに、「Where Dad starts to discover his natural instincts(父が、息子の生まれながらの本能を発見する場所)」とコピーライトが入っています。ハミルトン島で過ごす時間は、様々なことに親子で挑戦できる内容の濃いものとなり、子どもとの絆がぐんと深まることをイメージづけています。
■2、大手スーパーマーケットが展開するサイト「乳幼児クラブ」
ひと昔前までのオーストラリアでは、育児や家事、買い物はママの仕事という考えが強かったのですが、貴重な女性戦力の流出を防ぐため、政府や企業が出産後も社会復帰しやすい環境を整えたことにより、自然と育児や家事に協力するパパが増加。当然のことながら、初めての育児をする上で、パパたちは疑問や不安に直面しました。そんな不安や悩みを解消してくれるとして人気が集まっているのが、豪大手スーパー「ウールワース」がマーケティングの一環として展開している「baby & toddler club(乳幼児クラブ)」のWebサイトです。
持ち運びが大変な家庭の買い物をパパが担当することが多いことに着目し、パパの買い物サポートとして、子どもに必要かつ安全な食品の知識をサイトで提供。同スーパーの食材を使った様々なレシピの紹介や食事の提案をしているほか、妊娠中の注意点や疑問点の解決法、アレルギーなど乳幼児に関わる最新ニュース、そして妊娠中の妻や子どもをサポートするためのパパを対象とした情報も数多く掲載されており、毎日見たくなる仕掛けがたくさんあります。
買い物において、女性はいかにお買得かを考えて購入する傾向にありますが、男性は必要なもののためには、値段にはこだわらず、商品の質に重点を置くことが多いと言われます。そんな購入の方法が全く異なるママ層とパパ層の両方をターゲットとした「乳幼児クラブ」は、スーパーのマーケティング戦略の成功例として要チェックです。
■3、パパたちの情報交換の場「パパのプレイグループ」
オーストラリアでは、ママ友ならぬパパ友を作りたいという初心者パパが一定数います。同じ育児でも、パパとママでは育児に対する考え方や子どもへの接し方が異なることが理由だからでしょう。そんなパパのために、1歳前~就学前までの子どもたちが遊びを通して交流する場である「プレイグループ」のパパ専用版が、じわじわと人気を集めています。
オーストラリアのミレニアル世代(1980~2000年生まれ)の平均就労時間/週は、世界最低水準の41時間である(人材サービス会社マンパワーの調べ)ことが分かっており、この世代のパパの育児参加率は非常に高いことも知られています。ミレニアル世代のパパはフレックスな就業体制を利用し、空き時間は子どもを連れてパパのプレイグループに積極的に参加しているようです。
ミレニアル世代のパパへの訴求として、FacebookなどのSNSを使ったパパのプレイグループのメンバー募集をよく見かけます。ママ向けのグループでは助産師が常駐する地域の子育てセンターでの開催が多いですが、そういう場所へ出かけるのはさすがのオージーパパもちょっと抵抗があるもの。そこで、パパ向けのイベントは、子どもの遊び場を併設しているカフェやレストラン、パブでの開催を増やし、集まりやすい工夫がなされています。
■4、パブで父親のための出産・子育て勉強会「ビールとベビー 」を開催!?
働くオージー男性はビールが大好き。日本であれば、仕事の後は居酒屋やレストランで飲食をすることが多いかもしれませんが、オーストラリアではパブで同僚や仲間とビールを数杯飲んでから帰宅するというパターンが多いです。そのようなビール好きのオージーパパやプレパパを対象に、パブで開催する出産・子育ての勉強会が「ビールとベビー(Beer & Bubs)」です。出産や乳幼児に関する専門家を招いて全国各地のパブで定期的に開催しています。
勉強会のコンセプトは「ビールからベビーへ」。これには片手に握っていたものをビールジョッキから赤ちゃんへ移行するという意味が込められています。各産院で父親向けの勉強会も開催されていますが、母親向けの勉強会と比較すると出席率は低いのが実情…。しかし、行き慣れたパブで大好きなビールとともに出産や育児の勉強ができる「ビールとベビー」は大人気。仕事帰りに楽しくビールを飲みながら、妊娠中の妻のサポートの仕方や今後の育児への取り組みなどを学び、パパとしての意識を高めていくことができる、一石二鳥の企画だと言えます。
■パパの育児参加率アップで出世率アップも期待できる!?
オーストラリアでは、パパが育児休暇を取得するのはごく一般的です。ママの産後のケアのために2~3週間程度は当然のように育休を取得し、共働き世帯では、ママが職場復帰する際に、パパも3ヶ月~1年の育休を取得することが珍しくありません。家族サービスのための有給休暇も取得しやすい環境です。
女性の社会進出が著しい現代で、パパの協力なくしては育児も家事も回りません。パパが育児をしやすい環境や土壌を政府や企業を含めた社会全体で作っていくことで、多くのオージー男性の意識改革にもつながっているのではないでしょうか。
日本でも、共働き世帯の増加にともない、育児におけるパパの役割は一昔前に比べてかなり大きくなってきています。ベビー関連のプロモーションのターゲットとして、パパに注目するのは、これからの時代に必須の切り口だと言えるでしょう。そして、企業によるパパ向けプロモーション活動の積み重ねは、子育てしやすい世の中を作ることに貢献し、間接的に出生率を高める秘策となるかもしれません。