中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【後編】

これまで2回にわたってお伝えしてきたように、アリババはオンラインとオフラインを融合させる「ニューリテール戦略」を推進し、多種多様な企業と提携することで顧客情報の「ビッグデータ化」を実現しました。そして、より快適な消費体験の場を提供することで、新たな市場を生み出しています。では今後、アリババの「ニューリテール戦略」はどのような未来を描いていくのでしょうか。また、日本の企業はアリババの戦略から何を学んでいくべきなのか。その可能性や課題について、株式会社リクルート事業開発部中国担当の王沁(Alex Wang)氏にお話を伺いました。

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中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【前編】

中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【中編】

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プロフィール
王 沁(Alex Wang)氏

慶應義塾大学商学部卒業。リクルートホールディングス&リクルートライフスタイルでCIA(中国情報局)責任者を務める傍ら、日中をつなぐコンサルティング会社を経営。中国・日本市場、どちらにも精通する新進気鋭のマーケターとして活躍中。APEC(アジア太平洋経済協力) CHINA メンバー。中国春暉杯(国家海外起業イベント)日本地区メンター。

「ニューリテール戦略」で、SF映画が現実になる!?

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まずは「ニューリテール戦略」の今後の可能性について、王氏に伺いました。
「簡単にいえば、私たちがこれまでSF映画で見ていた世界を、アリババがまさに実現しています。デリバリーなどの普及によって、いかにあらゆるものが簡単に入手できるようになったか。アリババが推進する『OMO』によって、『購買』という行為そのものがエンターテイメント化し、楽しく消費活動ができるようになっています。

例えば、生鮮食品を扱うスーパー『盒馬鮮生(フーマーシェンション)』では、商品の横に表示されているQRコードをアプリで読み込めば、産地や流通経路、さらには調理方法まで見られます。無人レジを使って自分でバーコードをスキャン、支払いも決済アプリでキャッシュレス。さらに、自分の買ったものが自動的に登録され、以前の購入品をもう一度買いたいと思えば、デリバリーで簡単に購入できます。しかも、お店から3㎞圏内なら30分以内に配達してくれるのです」
その上、購入商品をその場で調理してくれるサービスまであり、まさに映画で見た近未来図が目の前に広がっているようです。

より個人にフィットした「パーソナライズ」消費を目指すアリババ

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また、消費活動がどんどんパーソナライズ化されていると王氏は言います。
「昔は大量生産で、とりあえず商品がたくさんあればよかったですが、今はいかに他との違いを出すかが重要になっています。特に中国では、個人の好みに合わせたオリジナルやパーソナライズされた商品を売る部分に企業が力を入れています。

例えば、私がスーツをオーダーする場合、どんな商品を買いたいかなど選択肢をいくつかクリックすればたちまち複数のレコメンドが返信され、私に合うさまざまな商品の組み合わせを提案してくれて、とても使いやすいです。過去の閲覧や購入履歴を解析して、パーソナライズ化された商品をおすすめしてくれるのです。

アリババは多種多様の企業へ投資することにより、それぞれの企業が提供するものやサービスを組み合わせ、顧客の利便性を高めています。今はまだ、『ありもの』の組み合わせがほとんどですが、今後はものづくり分野にまで進出してくる可能性もあります」

そうなれば、さらに個人の好みに特化した新商品、これまでの買い物の常識を覆すような「カスタマーエクスペリエンス」が実現されるかもしれません。今後、アリババの進化が楽しみです。

「ニューリテール戦略」における今後の重要課題とは?

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ワクワクするような未来像を描くアリババですが、クリアすべき課題もあると王氏。
「まずは『情報管理』の問題。近年はサイバーアタックなども激化し、情報漏洩をどう防ぐか。特にアリババは企業の与信データなども持っているので、サイバーセキュリティ―は『重要課題』です。そして、個人データについても情報量は膨大なので、漏洩すれば簡単に個人が特定されてしまう。今はまだ、多くがこの問題にあまり敏感ではありませんが、どこかの段階でその危険性に気づくでしょう。サイバーセキュリティーがしっかりしていなければ、顧客も離れてしまいます。

第二は『労働力』の問題です。なぜ今、デリバリーがこんなに安くできるかといえば人件費が安いから。近年、中国のGDPは年7%くらいの割合で伸びており、当然、人件費も上がることが予想されます。しかし、デリバリーの需要は今後も増加の一途をたどり続け、安い人件費では『供給側』、つまりデリバリー要員が不足してしまいます。そのバランスをどう取るかが大きな課題です。

第三に、『顧客が満たされ過ぎる』問題。ものがあふれすぎると、欲しいと思えるものがなくなってしまう。また、家に居ながらにして買い物ができ、外に出る必要もなくなる。その余った時間をどう使うかも問題です。今後は「モノ」消費ではなく、体験などの「コト」消費になると考えられ、そこにどう対応するかが課題となるでしょう。
そして最後に『海外進出』の問題。アリババは地域の枠を超え、商品や労働力を供給していきたいと考えています。中国の国内消費だけでは限界があり、国を超え『SKU(最小管理単位、Stock Keeping Unit) 』を増やしていきたいのです」
こうした課題にどう対応していくのか。アリババの真価が問われるところです。

日本の企業はアリババから何を学ぶべきか

このように、さまざまな可能性を秘めたアリババの「ニューリテール戦略」ですが、こうした事例から日本企業は何を学び、何を取り入れていくべきなのでしょうか。

「アリババが展開するサービスの仕組みを参考にすれば、色々なビジネスチャンスが生まれてくるはずです。例えば『Tモール』のように、アリババがつくり上げてきたスキームを使えば、さまざまな便利サービスを提供できるようになります。

日本はまだ、パソコンを利用し買い物などをする人も多いですが、スマートフォン(以下スマホ)などのツールなら移動しながらできます。これからはこうした移動ツールをどんどん活用すべきです。しかし、日本では携帯を使える場所や使いやすいアプリが少ないと思います。

そもそも、日本人はアプリをダウンロードしたがらない、オンライン決済も使いたがらない、そういう国民性だという声もありますが、私はそうは思いません。問題は提供側の企業です。もっとスマホで利用しやすく、快適な『カスタマーエクスペリエンス』を開発する余地があるはずです。

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私が日本の観光情報を知りたい時、スマホよりパソコンを使います。なぜかと言えば見やすいサイトが少ないから。昨年の独身の日セールは、購入時、中国でのスマホ利用の人は8割を超えました。そもそも『Tモール』自体、パソコンよりスマホの方が使い勝手がいい。パソコンだと情報が多すぎ見にくいが、スマホだとちょうどよくなっています。そのユーザーインターフェイス部分は非常に大事だと思います。

日本はユーザーインターフェイス面で遅れています。なぜかといえば、新しいものに挑戦するリスクへの躊躇があるからではないでしょうか。Web1.0から2.0時代になって、スマホという移動ツールに対応したニュースキームを作らなければいけないのに、そこに挑戦できていません。デザイナーなどはとても優秀な人が多いのに決済人が決断できない、責任を負いたがらずで、結局は古いスキームを使い続ける。

ここでニュースキームを取り入れれば、大きな可能性が広がるはずです。中国で現在使われているサービスは、すでにさまざまな検証を終えているということなので、それを模倣するだけでもいい。
ここでニュースキームを取り入れれば、大きな可能性が広がるはずです。中国で現在使われているサービスは、すでにさまざまな検証を終えているということなので、それを模倣するだけでも、新たな顧客を呼び込めるでしょう」

まとめ

今回、3回にわたってアリババの「ニューリテール戦略」について王氏からお話を伺ってきました。ビッグデータを活用し究極の「カスタマーエクスペリエンス」を実現すべく、次々と新しい戦略を行っています。
王氏の指摘にもあるように、日本ではオンラインとオフラインの融合以前に、オンラインにおける施策の遅れは否めません。世界の潮流から取り残されないためにも、日本がアリババや中国のオンライン市場から学ぶべきことはたくさんあるようです。

【こちらの記事は連載です】
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