中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【中編】

前編でもご紹介したように、アリババが推進する「ニューリテール戦略」では、オンラインとオフラインを融合させたさまざまな新サービスが登場しています。オンライン予約で試乗から購入までできる「自動車自動販売機」、アリババのビッグデータを活用して高効率な仕入れを行う「Tモールスマートコンビニ」など、これまでの常識とはまったく違った買い物体験を提供するアリババ。その具体的な取り組みについて、株式会社リクルート事業開発部中国担当の王沁(Alex Wang)氏にお話を伺いました。

【こちらの記事は連載です】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【前編】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【後編】

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プロフィール
王 沁(Alex Wang)氏

慶應義塾大学商学部卒業。リクルートホールディングス&リクルートライフスタイルでCIA(中国情報局)責任者を務める傍ら、日中をつなぐコンサルティング会社を経営。中国・日本市場、どちらにも精通する新進気鋭のマーケターとして活躍中。APEC(アジア太平洋経済協力) CHINA メンバー。中国春暉杯(国家海外起業イベント)日本地区メンター。

世界中から注目を集めた「独身の日」、その実態とは?

11月11日は中国の「独身の日」で、アリババをはじめとしたインターネット通販各社が仕掛けるオンラインビッグセールが日本のメディア各社でも取り上げられました。特に、2018年はこのイベントの10周年ということもあり、1日の売上高は3.5兆円超と過去最高を記録。これは2017年に楽天のネット通販で出された取扱高(約3.4兆円)を超える数字で、その規模の巨大さが大きな話題となりました。では、具体的にはどんな施策が行われたのでしょうか。

「2018年は参加店舗数が18万を上回りました。中国の企業だけではなく、ユニクロなどの日本企業やアメリカ企業も出店しています。期間限定の店舗が設けられるなど、とにかくものすごい数の店舗が一斉にセールを行いました。また、前日の10日には盛大な前夜祭が行われ、ミランダ・カーやマライア・キャリーなどの人気アーティストが華やかなショーを繰り広げました。その様子はオンライン配信やテレビ中継され、中国全土でお祭り騒ぎのようになりました。

実はこの日の1カ月ぐらい前から、顧客はみんな自分が欲しいものをオンラインショップのカートに入れて待っています。当日は割引セールがあるので、そこで一斉購入するわけです。だから、特に最初の数分間の売上高がすごい。2018年は開始後わずか2分ほどで、取引額が100億元(約1,600億円)を突破しました」と王氏。

2009年にアリババが初めてこのイベントを開催したときは、参加企業27社、売上総額は5,000万元(約8億5,000万円)だったそうで、この10年間の伸び率はまさに驚異的です。一体どこまで伸び続けるのか、今後の動向も目が離せません。

無人管理と長時間試乗を実現した「自動車自動販売機」

車を購入したいと思ったら、まずは、ディーラーで希望する車に短時間試乗し、購入するか否かを決断する。それが、長らく自動車を購入する場合のスタンダードでした。しかし、アリババが2018年3月に開始した「自動車自動販売機」は、長時間(72時間)試乗を無人店舗で実現させるという画期的なもの。そこには想像を超えたカスタマーエクスペリエンスが用意されているそうです。

 「アリババのオンラインショッピングブランド『Tmall(天猫)』が設置する巨大な自動販売機のようなセンターがあり、そこにはたくさんの試乗車が並び、無人の受付機が設置されています。顧客はアリババのECサイトで試乗を予約、顔認証システムによるチェックを経て、キーボックスから試乗車の鍵を取り出します。そして72時間、つまり3日間にわたってその車を試乗できるという仕組みです」

 自動車という比較的高価なものが無人管理されていることにも驚かされますが、簡単に試乗ができる上に、3日間も乗れるとなれば「そのまま返さない人」が出てきたりしないのでしょうか。

 「『アリババ会員』はアリババのアプリを使っているので、過去のさまざまな履歴から個人の信用度がデータ化されています。信用スコアが高い人(700点以上)しか試乗できない仕組みになっているので、そのようなトラブルはありません」

 「自動車自動販売機」はEコマースで築いた莫大な個人情報などを含むビッグデータを活用し、実店舗が必要とされるリアルビジネスでも買い物体験そのものを変えてしまう一つの典型事例でもあります。こうしたビッグデータがあるからこそ『ニューリテール戦略』という新たな施策のなかで大胆な試みを打ち出すことができたと言えるでしょう。

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顧客のビッグデータ化を実現する「決済システム」が成功の要

「実際、アリババが収集した個人情報量は『Amazon』よりはるかに細かく膨大です。10点満点でいえば、『Amazon』が3点ぐらいですが、アリババは8~9点ぐらいだと思います」
と王氏は言います。では、なぜそこまで詳細な情報収集が可能なのでしょうか。

「一つには、アリババがさまざまなサービスへ投資しているからです。『ウェイボー(微博)』という中国最大のSNSや配車サービス・自転車のレンタルサービスなどにも投資しています。だから、そのサービスを利用した顧客情報が、自動的にアリババに集約されていくわけです。
さらに、アリババは顧客の『消費行動の最終部分』を握っています。どういうことかというと、『アリペイ』という決済サービスを手がけることにより、顧客の最終行動である『支払い』の部分を掌握しているのです。

この『アリペイ』はまさにスーパーアプリで、これさえあれば、飛行機や新幹線のチケットも買えるし、車のレンタルもできる。そして、日常生活で不可欠な光熱費の支払いやさまざまな振込み、さらにはローンも組むことができます。映画やカラオケと言った娯楽にも対応しています。

アリババは傘下にいる会社のサービスをこのアプリに集約させることで、誰もが1日1回アクセスするような状況をつくり上げました。それによって、アリババに膨大な量の情報が集積されるのです。これがニューリテール戦略の重要な『キーデバイス』になっています」
実際に、王氏から「アリペイ」アプリを見せていただきましたが、上述のようなサービスの多彩さや使い勝手の良さには目を見張るものがあります。

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確実な仕入れで売り上げを伸ばす「Tモールスマートコンビニ」

また、アリババはニューリテール戦略の実験店舗第一号として、杭州の浙江大学正門横に昔からあった個人経営のコンビニを「Tモールスマートコンビニ」としてリニューアルオープンしました。最大の特徴は、アリババが集積した膨大な量の個人データ、つまりビッグデータを活用し、効率的な商品管理を行っている点です。

「アリババはさまざまなデータを持っているので、個人商店に対しても提供できるものが多くあります。その最大の価値は、どんな商品が売れるかという『データ』です。お店の周辺、半径3㎞以内の住民や通勤・通学者の消費行動を、アリババユーザーの購買履歴から分析することで、この地域で売れているものがわかります。そのデータを基に品ぞろえを決めていくわけです。それによって、確実な仕入れが実現できます。

携帯とパソコンさえあれば、アリババが提供するソフトを使って、その日の商品売り上げや在庫数などのデータ(いわゆるPOSデータ)もすぐに見られるので、商品管理も簡単です。導入コストも年間10万円ほどと、驚くほど安い。つまり携帯とパソコンさえあれば、誰でも簡単にコンビニ経営ができるといっても過言ではありません」と王さん。

中国では、大手コンビニチェーンに属さないこうした個人商店が600万店舗もあるそうです。これらの商店がアリババのビッグデータを活用するニューリテール店舗になっていけば、より高効率で消費者も店舗も満足する「スマート」な消費社会が実現しそうです。

【前編はこちら】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【前編】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【後編】

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プロフィール
王 沁(Alex Wang)氏

慶應義塾大学商学部卒業。リクルートホールディングス&リクルートライフスタイルでCIA(中国情報局)責任者を務める傍ら、日中をつなぐコンサルティング会社を経営。中国・日本市場、どちらにも精通する新進気鋭のマーケターとして活躍中。APEC(アジア太平洋経済協力) CHINA メンバー。中国春暉杯(国家海外起業イベント)日本地区メンター。

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