中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【前編】

中国の巨大EC企業、アリババ。アリババは2016年末、OtoOを推進させるための「ニューリテール戦略」を発表しました。この戦略を軸に、ネット通販ながら注文から30分以内で生鮮食品が配達されるスーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーシェンション)」や、ショッピングアプリで試乗を予約し、自社のECサイトが運営する実店舗で試乗から購入までできる自動車の自動販売機など、斬新な試みを展開。オンラインとオフラインを融合させたこれらのサービスは、中国社会のみならず国際社会にセンセーショナルな衝撃を与えました。

今回は株式会社リクルート事業開発部中国担当の王沁(Alex Wang)氏に、アリババの「ニューリテール戦略」の3つの骨子(OMO、AIやビッグデータによる効果最大化、買い物エンターテインメント・エクスペリエンス)の最新事例と、今後の世界的な潮流および、日本がとるべき「ニューリテール戦略」の方向性について伺いました。

【こちらの記事は連載です】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【中編】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【後編】

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プロフィール
王 沁(Alex Wang)氏

慶應義塾大学商学部卒業。リクルートホールディングス&リクルートライフスタイルでCIA(中国情報局)責任者を務める傍ら、日中をつなぐコンサルティング会社を経営。中国・日本市場、どちらにも精通する新進気鋭のマーケターとして活躍中。APEC(アジア太平洋経済協力) CHINA メンバー。中国春暉杯(国家海外起業イベント)日本地区メンター。

アリババの「ニューリテール戦略」とは?

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アリババのジャック・マー社長が2016年末、新たな小売業の形として発表した「ニューリテール戦略」。一般的には「オンラインとオフラインの融合(OtoO)」などと言われますが、具体的にはどのような戦略なのでしょうか。

「一言でいえば、『情報のデジタル化によって消費体験を増やす』ということです。さまざまな情報をデジタル・データ化することで、今までなら買おうと思わなかったもの、あるいは知らなかったものを『買いたい』と思わせる。例えば、車を買いたいと思った時、これまではディーラーに行っても短時間の試乗しかできず、判断が難しかった。でも、アリババが始めた車の『自動販売』という新サービスでは、3日間も試乗ができるのです。これにより、顧客の購買意欲が高まることが期待されます」

アリババは様々な企業と提携することで、あらゆる消費シーンにおいて、こうした新たな購買行動を喚起しています。具体的な領域は以下の8つです。

  1. 1、オンラインショップ:〈天猫(Tmall)〉
  2. 2、家電:〈蘇寧電器〉
  3. 3、百貨店:〈銀泰(INTIME)・百聯集団〉
  4. 4、スーパーマーケット:〈盒馬鮮生・大潤発                〉
  5. 5、家具や生活用品:〈居然之家(Home Living)〉
  6. 6、ローカルライフサポート:〈口碑(Koubei)・餓了麼〉
  7. 7、農村分野でのEコマース:〈農村淘宝〉
  8. 8、スマートコンビニ:〈零售通・天猫小店〉

これらを見ると、オンラインもオフラインも含め、あらゆる分野にアリババの購買網が広がっていることがわかります。では実際に、このニューリテール戦略の発表以降、中国ではどのような変化が出ているのでしょうか。

「すごく変化していると感じます。私は2カ月に1回ぐらいの割合で中国に帰国していますが、アプリの使いやすさやサービスの普及度など、帰る度にどんどん変化しているのを体感しています」と王氏。アリババが矢継ぎ早に繰り出す新サービスにより、人々の消費行動にも変化が現れてきているようです。

「ニューリテール戦略」が出てきた背景を探る

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「中国ではオンライン市場が急激に伸びてきましたが、ここ数年は売上成長率が鈍化しています。しかも、『テンセント』など同業他社の参入で市場競争は激化しています。しかしながら、その一方、実は中国の小売業全体でオンライン市場の占める割合はまだ15%程度だそうです。地方の農村部などでは、そもそもインターネット環境すら整っていない地域もあり、昔ながらの個人商店が細々と商売を続けているのが実情です」と王氏。

だからこそ、「オフラインとオンラインを一緒にした方が絶対に効率がいい」と王氏は力説します。
「例えば、オンライン市場で得た顧客の購買データ(=ビッグデータ)を活用すれば、特定の地域や顧客層の需要が明確になり、より確実な仕入れが可能になります。こうした利点を武器に、巨大なオフライン市場をオンライン化すること、それこそがさらなる成長をめざすアリババの『ニューリテール戦略』なのです」。

具体的には、これまでの既存事業(服装・日用雑貨・生鮮・飲食・インテリア)を「コア事業」とし、全国民ビッグデータの活用、社会的インフラやソリューションの提供を目指します。さらに新規領域(農村・国際・オフラインリテール)に参入することで市場を拡大、リテール世界最大手となることを目標に掲げています。

OtoOの進化版、「OMO」とは?

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「簡単にいえば、OtoOは片道通行で、『OMO(Online Merges Offline=オンラインとオフラインの融合)』は双方向といえます。例えば、ネット(オンライン)で広告やクーポンを出し、顧客が店舗(オフライン)に足を運ぶよう促すのがOtoOです。これに対し、OMOというのは、例えば自転車のレンタルなら、アプリ(オンライン)を起動して貸出し手続きを行い、実際に自転車に乗って(オフライン)、返却や精算はまたアプリで行うというように、オンラインとオフラインでの情報のやりとりが頻繁に行われます。

また、スーパーの『盒馬鮮生』では実際の商品を手に取りながら、表示されているQRコードをスマートフォンで読み取ることで、原材料や食品添加物などの詳細データ、商品の口コミ評価なども見ることができるそうです。さらに、支払いも自分専用のアプリで行うので、購買データが記録され、過去に買った商品をもう一度購入するといったことも簡単にできます。つまりOMOによって、より便利で快適な消費体験が可能になるわけです」

「エンターテインメント化」するショッピングの実態とは?

中国では近年、「買い物」という行為が単なる消費行動ではなく、娯楽性や実体験を重視したエンターテインメントになってきています。その実態についても伺ってみました。

「最近はOMOによる新たな試みが次々と出てきています。例えば『未来バー』という実験店舗では、顔認証でワインを買えます。また、アリババとスターバックスの提携によって上海にオープンした『Starbucks Reserve Roastery』では、専用アプリを使って様々な『AR体験』を楽しめます。サイフォンにスマートフォンをかざすとコーヒー豆の種類が表示されるなど、豆の栽培から焙煎・抽出に至るまでのストーリーをアニメーションで見られます。ただコーヒーを買って飲むだけじゃなく、コーヒーが作られるステップも楽しめるわけです」

必要なものを買う時代から、「買う」行為そのものを楽しむ時代へ――アリババのニューリテール戦略は、そんな新たな潮流を生み出しているといえそうです。

※スターバックス事例参考サイト
https://stories.starbucks.com/stories/2017/starbucks-first-in-store-augmented-reality-experience/

【中編はこちら】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の全容と 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【中編】
中国通販大手「アリババ」の「ニューリテール戦略」の 最新動向から見る、未来型顧客エクスペリエンスとは?【後編】

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