賃金上昇が頭打ちとなり生活費に変化がなければ、消費者は贅沢品の購入を控えるようになりますが、その一方で、友人や家族との貴重な時間をわかち合う体験へのお金を費やす傾向になるといいます。この行動に着目し、マーケティングとして活発になりつつあるのが「エクスペリエンス(体験型)マーケティング」です。重要な広告戦略として、これに予算を組み込む企業が年々増えています。

イベントトラック社が行った調査報告書によると、体験者の74%が参加後に購入意欲が増大したと回答。体験型マーケティングは消費者にひらめきや刺激、知識を与え、さらに成功したときには肯定的感情をもたらせ、購買行動へ影響を与えることがわかってきています。

メルセデスベンツが新型のバン「マルコポーロ・アクティビティ」において、マーケティング戦略として選択したのは、民泊仲介サイト「Airbnb」との提携による乗車・宿泊体験。しかも、場所はシドニー湾に浮かぶ世界遺産コカトゥー島で、何と予約開始後約1時間で売り切れ、注目を集めました。今回はこの事例を元に「エクスペリエンスマーケティング」について紐解いていきます。

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■メルセデスベンツが行ったエクスペリエンスマーケティングとは?

メルセデスベンツが販売するバン「マルコポーロ・アクティビティ」は車名の通り、大人2人&子供2人が快適に宿泊できる機能を備えた「アウトドア兼用自動車」です。市街地では伝わりづらいこの車の魅力を、「コカトゥー島」という場所に移すことで最大限に発揮できるようにしたのです。このコカトゥー島は植民地時代からの深い歴史を持ちつつも、現在はキャンプ地として親しまれており、国内外の旅行者にとても人気があります。

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そして同車の魅力を惜しみなくアピールできるように「Airbnb」と提携することで、自社では難しい「コンシェルジュサービス」や「食事」に「アメニティ」、その上「キャンプファイヤー」まで含まれた豪華でリラックスできる宿泊プランとして提供できるようになりました。

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■体験者と製品の感情的つながりを構築するマーケティング

「エクスペリエンスマーケティング」では、企業側からの製品説明は最小限ながらも、製品のサービス機能や知識を短時間で、かつ直接的に深められることが知られています。
「五感」で得た経験は、体験者が製品に「感情的なつながり」を作り出して信頼感を高め、さらに、もたらされた成功体験の充足感などから、好感度の上昇や購買意欲につながっていく傾向にあるようです。

今回メルセデスベンツが行ったこの体験会は、アウトドアイベントや旅行に関心を持つ層に絞り、その市場に直接持ち込んだことで消費者の注目や関心を集めました。マーケティングとしては、高い成果を出した例だと言えるでしょう。

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■体験を通して、体験者を推奨者に変える

従来のマーケティングは企業側からの一方的な発信が多く、消費者は聞き手として「受け身」の状態でいることが当たり前でした。ところが「エクスペリエンスマーケティング」の場合は、消費者が主体的に参加し「体験」するため、将来的には製品の良さを広める企業側と同等の立場、製品の「推奨者」になり得る可能性を秘めています。

そして、これはこのマーケティングにおける狙いの一つである「拡散力」につながります。
調査によると、体験者の約98%がフェイスブックやインスタグラムといったSNS上で、体験中の写真や内容を投稿していることが明らかになっています。

投稿者の発信する内容を読む人は、共通の趣味や関心を持つ人も多く、目に留まりやすい環境であると言えるでしょう。また、常にフォローしている人による発信内容は、信ぴょう性や信頼度が高くなる可能性も多く、企業側の発信より「メッセージ」に力強さが伝わることも大きな特徴です。

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■ターゲットの絞り込みが成功の秘訣

「エクスペリエンスマーケティング」は体験者による「情報のシェア」で、オートメーション的に知名度や顧客数が上昇する効率的な戦略法です。ただし成功に導くためには、消費者が「必ず」満足するイベントを計画して、その上「SNS」で発信してもらう必要があります。

そのためには、提供するイベント内容はもちろんのこと、ターゲットの「絞り込み」が非常に重要となってきます。製品に関連する市場や、関心があると予想される層に向け、マーケティングを行っていかなければなりません。それによって初めて、消費者が感動をシェアする確率も上がり、さらなる顧客創出へとつながっていくのです。

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