人口約554万人が住む、東南アジアの経済大国シンガポール。国民の74%を中華系民族が占めるため、“春節”と呼ばれる中国旧正月(以下旧正月)は多くのシンガポール人にとって1年の中で最も重要な祝日となります。旧正月前は、大型連休を前に購買意欲も盛り上がるシーズン。中華系シンガポール人に向けた訴求がカギとなるため、幸運と魔除けをあらわす赤色を基調とした大量のプロモーションが投下されます。シンガポール市場の7割以上を占める中華系民族の心をくすぐるポイントは何か。2016年の旧正月に実施された様々な企業のプロモーションから、共通するキーワードを紹介します。

■一族の繁栄のために結束!「家族」シーンで共感を掴め

中華系シンガポール人にとって非常に重要な「家族の繋がり」。日本で消えつつある「濃い親戚付き合い」が健在で、“旧正月に親戚の家を挨拶してまわる”風習が強く残っています。そのため多くのプロモーションには「親戚の家で新年の挨拶を行う」「親戚一同が集まる」「家族で食卓を囲む」などという、「家族」「一族」のつながりが表現されています。
例えば、マクドナルドシンガポールが放送したコマーシャルは、孫たちが祖母の前に立ち順番に新年の抱負を宣言していき、喜んだ祖母が紅包(アンパオ)を渡していくというもの。最後には祖母が孫を抱きしめ、皆で祖母を笑顔で囲みます。そして画面には「True prosperity is a happy family」(真の繁栄とは、幸せな家族のことである)の文字が。商品は一切登場せず、多くの家庭で見られる“旧正月あるある”な光景をちょっとユニークに、全面に押し出すことで消費者から共感を得ています。

■「紅包(アンパオ)」「マンダリンオレンジ」は欠かせない旧正月アイコン

多くの広告内に登場する真っ赤な封筒は、「紅包(アンパオ)」と呼ばれるもの。中に新札で偶数額(2$~ ※4は死を連想するので避けられます)を入れ、子どもだけでなく大人にも渡されます。渡す対象も広く、親戚はもちろん同僚や友人の子ども、会社の役職者は部下に渡すことも。日本のお年玉とは異なる「福を与える」という意味を持つ風習であるため、多くの紅包を持ち歩き配る、という人もいます。もう一つの欠かせないアイテムは「マンダリンオレンジ(みかん)」。食べるためでなく「旧正月に交換し、運気をまわす」という風習があります。理由は諸説ありますが、丸く黄金色であることが富と幸運を象徴するからだと言われています。近年、シンガポールでは高級果物になる日本産みかんを旧正月用に販売する店も。挨拶とともに、仕事関係者・友人・親戚とマンダリンオレンジを偶数個(ほとんどの人が2個)交換し合うのは、旧正月にあちらこちらで見られる光景。旧正月に、店頭や店内ディスプレイ、オフィスのデスク、タクシーの運転席など至るところにマンダリンオレンジが飾られているのはこれが理由です。旧正月の二大アイテムである「紅包」と「マンダリンオレンジ」は多くの広告に登場し、“旧正月らしさ”“伝統風習”を強調してくれる伝統的なシンボルとなっています。

■購買欲を刺激する限定デザイン 「CNY(Chinese new year) Limited edition」

「紅包」「マンダリンオレンジ」という旧正月の象徴アイテムを登場させた統一感あるプロモーションに対し、ブランドイメージを保ちつつ購買を促進する方法が、旧正月限定デザイン・パッケージを発売すること。販売時期限定で消費者の購買意欲を高め、かつブランディングを図る手法と言えます。例えば、高級チョコレートとして名高いGODIVA(ゴディバ)。赤色を基調に、2016年の干支である猿をデザインした高級感溢れるパッケージを発売しました。

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画像参照:https://www.godiva.com.sg/seasonal/2016-cny/en/index.html

コカ・コーラシンガポールは、旧正月限定パッケージの発表と共に、若者に人気のミュージシャンを起用し路上ライブとサンプリングを実施。限定パッケージが8本(中華圏で縁起がいいと好まれる数字)揃ったギフトパックが当たるキャンペーンを行いました。
参照:https://www.instagram.com/p/BBmpjHdjZ_Y/?taken-by=cocacolasg

他にも、AppleのApple watch、ラグジュアリーコスメブランドの旧正月限定デザインなどが発売されていますが、いずれも幸運と魔除けの意味を持つ赤色をベースにブランドらしさを出したデザインとなっています。

■縁起もの・伝統的風習に則ったプロモーションが原則

いずれのプロモーションも、中華系民族の伝統に強く影響を受けており、旧正月というイベントが“中華系民族の根幹を成す重要行事”であることが分かります。縁起ものと伝えられている色やアイテムに関しては勝手なアレンジは歓迎されないでしょう。伝統を尊重しながら、いかに独自のPRを行うかがカギとなると言えます。
クリスマスシーズンが終わると待っていましたとばかりに旧正月プロモーションがスタートするシンガポール。2017年の旧正月にはどのようなプロモーション合戦が行われるのか注目です。

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