かつて子どもの遊びと認識されていた塗り絵。それが今、おとなの間でブームになってきています。日本でも少しずつ目にする機会が増えてきましたが、アメリカではすでに文化として定着しつつあり(参照:画像1)、2015年には前年度から約12倍、1200万冊もの売り上げに到達しました。なぜ塗り絵が趣味やアートの域を超えて広く人気を博したのか、その理由を分析していきます。

ブームの理由①マインドフルネス効果の宣伝

こころのエクササイズとして話題のキーワード、“マインドフルネス”。今この瞬間にフォーカスし、自律神経を整える時間を作ることを指し、規則正しい生活を送りづらくストレスの多い現代社会で必要な概念と考えられています。実は塗り絵が、その実践方法として効果的と注目され始めたことがブームのきっかけでした。
手を動かしながら時間を忘れて集中できるということが、手法として理想的と言われたのです。それをメディアが取り上げて記事にし、店頭では“Coloring Books”(塗り絵)という商品ジャンルだけではなく“Healing”(癒し)や“Meditation”(瞑想)というカテゴリーで宣伝するという相乗効果で、一気に認知されるようになっていきました。

ブームの理由②お手軽に始められる

ではなぜ、塗り絵が特に受け入れられていったのでしょうか。それは、①多くの道具を必要としない(本と色鉛筆やペンだけ)、②家で一人でできる、③経験やスキルなどを問われない、という誰でも気軽に始められやすい形であったからこそと考えられています。どのようなジャンルの趣味も、好きな本人にとっては悩みを忘れて没頭できるこころのエクササイズになり得ますが、この手軽さが多くの人の心を掴んだ理由なのでしょう。

ブームの理由③購入意欲をそそり続ける商品ラインアップの充実

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ブームの初期を盛り上げたのが、イギリスのアーティスト、ジョハンナ・バスフォードの『ひみつの花園』であったと言われています。塗る前から美しい細密な絵は、たしかにアニメやキャラクターをテーマとした子ども用のぬり絵とは一線を画しています(参照:画像2)。ブームを後押しするように、ここから次々とおとな向けの塗り絵本のジャンルが広がっていきました。自然、街、動物、ファッションや小物、インテリアなど、ラインアップが次々と充実していくことで、1冊終えたら次の1冊に、と続けていく意欲を刺激し続けているのです。

ブームの理由④SNSでのシェア文化!

また、塗り絵の特徴として、完成したものを見ても見せても楽しいという点があります。これがSNSで画像をシェアする現代のカルチャーとマッチして浸透しました。インスタグラムで“#coloringbook”“#おとなの塗り絵”と検索すると、様々な作品が投稿されていることが分かります(参照:画像3)。これを見ることで「自分もやってみようかな」「次はこのテーマに行きたいな」というきっかけ作りになり、投稿する側も自己表現として楽しむことができているのです。

おとな塗り絵の次なるブームは?

このマインドフルネスの効果はストレス対処法として注目されており、塗り絵以外にもヒット商品を生むポテンシャルがあると考えられます。次なるブームとして、ジグソーパズル、カリグラフィー、絵画などが開拓されようとしています。また、個人向けだけでなく、意思決定力を高め対人関係を良好にするという効果への期待から、医療の現場や企業の研修でも取り入れられ始めているとのことで、大きな広がりが感じられます。日本では書道や読経などマインドフルネスに通ずる実践方法が昔からあるため、これからどんどん浸透していく可能性があるでしょう。
また、今回のおとなの塗り絵のように、以前から存在していたものが、時代背景を読みうまく宣伝され広まることで、大きなブームになり得るということが分かりました。新たな商品ジャンルを開拓していくのはもちろんのこと、普段何気なく接している既存のものに着目し直すことも、流行を生み出す秘訣なのかもしれません。

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