「昨日は遅くまで娘の宿題を手伝っていたのよ。もう寝不足!」月曜日の朝の、アメリカ人の同僚とのいつもの会話です。日本でもアメリカでも、宿題をぎりぎりまでしない子どもに対する親の悩みは共通のようです。ただ、よくよく話を聞くと、今のアメリカの中学生は、宿題をすべてGoogle Docを用いてオンラインで提出しなければいけないというではありませんか!インターネット環境が整い、一家に一台以上コンピューターがあるのが当たり前になった今、テクノロジーの波は教育現場にもどんどん押し寄せています。

経済格差と共に教育格差も大きいアメリカ。地域によって学校のレベルや設備にも格差が広がり、州・学区・学校によって教育方針が異なります。そのため、アメリカの一般的な教育現場像を描くのは難しいのが現状ではありますが、今回はある中学校の特徴的な授業の一コマをとりあげながら、テクノロジーを取り入れたアメリカの教育現場についてレポートします!

日本と根本的に違うアメリカのクラスルーム形態

ニューヨークシティから車で北上すること3時間。ニューヨーク州都アルバニー郊外の、とある7年生(中学1年生)の数学の教室をご紹介します。中をのぞいてみると、生徒たちがペイントしたカラフルな手形が壁一面にあり、天井からはポジティブなメッセージが書かれた紙がたくさん吊るされています。

日本では、先生が各教室を回って授業をするのが一般的ですが、アメリカでは、中学校以上になると各学年・教科ごとにクラスが設けられ、生徒は時間割に沿って教室を行き来するシステムになっています。先生は自分の作成したレッスンプランに基づいて机の配置を変えることができ、授業に必要な事前準備もクラス内でできるので、生徒が入ってきてすぐに授業が始めらます。日本のように自分の机がないので、一人一人にロッカーが割り当てられ、そこに必要なものを入れるようになっています。

重い教科書をリュックに入れて登校するのは、もう昔の話。アメリカでは、教科書はあくまでも参考程度という位置づけで、授業中はほとんど教科書を使うことはありません。学校単位で教育方針も異なるため、クラスで使う教材は、先生がGoogle Slidesで手作りすることが大半だそう。
また、生徒の健康・疲労やセキュリティ面を考慮し、クラスに持ち込める物はごくわずか。この学校では、ノートを入れるルーズリーフバインダー、筆記用具、そして「アジェンダ」と呼ばれる学校が配布する生徒手帳の3つのみ。このアジェンダには、時間割や校則、日々の宿題を書く欄があり、生徒たちはこれを見ながら宿題や持ち物をチェックするようです。

教科書ではなく「あれ」を使って授業に臨む!

生徒たちが教室に入るなり、先生は机に設置されているコンピューターからGoogle Classroomにログインし、今日のレッスンプランをホワイトボートに映し出しました。さあ、ここから先生が前に立って授業を始めるのかとおもいきや・・・生徒がおもむろに立ち始め、クラスの後ろに充電されていたChrome Bookを取りに行くではありませんか!レッスンプランをみてみると、こんな指示が書いてありました。

  1. 2人組になってChrome Bookを取りに行きなさい。
  2. Google Classroomにログインし、レッスンプランの中にある「確率」のアニメビデオを見なさい。
  3. 下の問題を2人で一緒に解いてみましょう。

生徒たちは各自のペースで確率のアニメビデオを鑑賞後、プリントアウトされた確率の問題を解いていきます。Google Classroomにはドリルの解答もすでに載っているため、解けた生徒から自分たちで答えあわせをしていきます。これだけ読むと、「じゃあ先生は一体その間何をやっているんだ?!」と思いますが、Chrome Bookを導入することで、生徒が自分のペースで学習することができるほか、先生はより多くの生徒の質問に個別に答えることができ、わからない生徒に指導をすることができます。

黒板はもう古い!新種のホワイトボード登場

生徒がつまずきそうな箇所は、クラス全体で一緒に問題を解くこともあります。そんな時に活躍するのが、「インタラクティブスマートボード」。コンピューターのアクセサリにある「お絵かき」機能に似ていて、コンピューターと連動させて画面をクリックしたり、映し出したスライドに専用のペンで解答を直接書き込んだりすることが可能です。また、図形を描いたり、ビデオを録画して復習用にGoogle Classroomに載せたりと、ハイテク機能満載なホワイトボードなのです。

宿題の提出はGoogle Formで

クラスの最後には、Google Form(オンラインアンケートフォーム)の宿題リンクが配られ、生徒はそのリンクから宿題を提出することが義務付けられています。この方法に変えたことで、先生はエクセルに落として一気に採点できるため、採点にかける労力を大幅に減らすことができました。また、デジタル化することで生徒たちの習熟度が一目でわかるため、次のクラスでは間違いの多かった箇所を復習できるようになりました。

新しいクラスのスタイルに対する生徒たちの反応は?

この学校では、ごく数年前にChrome Bookを使った授業を取り入れたのですが、生徒たちも進化する学習環境に徐々に慣れ始めてきているようです。このクラスでは、先生が一斉に教える従来の授業形式と、今回のようなテクノロジーを使ったクラスを交互で行っています。

さて、気になる生徒たちの反応は?導入直後、「宿題はオンラインで提出するより、紙での方が空いた時間にどこででもできるのでいい」という意見が多くあったそうです。実は、この学校に通う生徒の中には、家にインターネット環境がない貧困家庭も多く在籍し、彼らは図書館のコンピューターで宿題をしていたのです。こういった問題を解決するため、この学校では、2017年から入学する生徒全員に、高校卒業までChrome Bookを貸与することになりました。貸与されるChrome Bookでは閲覧できるサイトが限られ、また、閲覧履歴も記録されるため、学校側が生徒一人一人のコンピューターでのアクティビティをモニターできるようになっています。今問題になっているネットいじめ等も、このモニター機能で未然に防ぐ策が取られています。

学生カバンに筆箱、ノート、教科書を入れ登校し、先生の書いた黒板の板書をノートに書き写す。こんな風景も、近い将来あまりみなくなるのかもしれません。日本の学校でも、授業にITを取り入れるテストが進められ、成果が発表されてきています。教育現場へのITの浸透により、情報の蓄積・収集・分析が可能になり、国としての方針の決定や制度改正、「教師が指導に専念できるための負担軽減」「教育格差の改善」などの現在直面している課題の解決につなげなくてはいけません。今後、教育現場へのITの浸透は日本でも急速に進んでいくことでしょう。

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