【連載記事】
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多くの企業が重要なミッションとして取り組むデジタルマーケティング。
しかし消費者は、オンライン・オフラインを行き来しています。
マーケティングのデジタル化によって紙メディア(オフライン)に期待される役割はどう変化していくのでしょうか。
今回は(一社)日本ダイレクトメール協会の専務理事である椎名昌彦さまにお話を伺いました。

共同印刷 神(以下、神):至るところでデジタル化が進んでいます。印刷会社としては耳の痛い話ですが、「脱紙メディア」の流れは否定できません。一方で、最近DMの効果を見直す企業が増えているという話もよく聞くようになりました。最新のDMメディアの動向はいかがでしょうか。

椎名さま:日本ダイレクトメール協会発表の「DMメディア実態調査」によると、本人宛DMの開封・閲読率は81.5%。また受け取った本人宛DMに対して19.5%が何らかの行動を起こしていることがわかっています。「ネットで調べた」や「家族・友人などの話題にした」など、WebやSNSといったデジタルメディアの浸透により、間接的な「行動喚起」が高率で起きていることが伺えます。
またDMが若年層に対して、他の年代よりも大きな訴求力を持っていることも重要なポイントです。男性20代は24.4%、30代は32.2%、女性20代は33.1%と、平均の2割~5割以上のスコアとなっており、デジタルネイティブ世代にも高い効果があることを示しています。

:デジタルネイティブにDMが効果的というのはとても意外です!なぜこの世代にDMが刺さるのでしょうか。

■デジタルネイティブの本音

椎名さま:20~30代のメディア環境はスマホが中心です。情報収集も口コミやメルマガ、LINE、SNSなどで、軽くて文字量の少ないカジュアルなコンタクトが日常になっています。
このコミュニケーションに慣れていると、オフィシャルで丁寧な紙のDMが届くと、とても新鮮でリッチな気分になるようです。“自分がきちんと扱われている”と感じるようなんですね。この世代は、相対的にDMという日常にはないコミュニケーションに驚きやインパクトを受けるという仮説を立てることができます。

:なるほど。スマホコミュニケーションが当たり前の世代にとっては、紙のDMというコミュニケーションは新鮮なんですね。
SNSなどのデジタルメディアではビジュアルで魅せることが多いと思いますが、DMは情報量が多い方が反応がいいのでしょうか。

椎名さま:両方ではないでしょうか。情報量も重要ですが、ビジュアルのインパクトも大切だと思います。丁寧で詳しい情報を「ストーリー」を持って伝えられるのは、紙メディアならではで、受け取った側もなかなか捨てられなくなるんですね。結果、よく読んでもらえることにつながっているのだと思います。

:デジタルメディアで日々能動的に自分が求める情報を検索している若年層にとって、潜在的な行動ニーズをDMというリアルメディアで受動的、かつ無意識のうちにフォローされると、とても影響を受けそうですね。
今後、DMの役割はどのように変化していくと考えていらっしゃいますか。

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■デジタル時代のDM 3つの変化

椎名さま:変化としては3つの方向性があると考えています。
まず1つ目は、「デジタルメディアにできないことや効率の悪い領域を狙う」です。
デジタルメディアは認知向上やサイトアクセスまでは効率的ですが、最終目的である「行動」「売り」へのコンバージョンでは低い効果しか得られていません。逆にDMは情報量が多く、受け取りに対して19%前後の行動喚起という圧倒的なコンバージョン力を示しています。

驚かれると思いますが、一般的にメールのパーミッションは3割、開封率は2割程度と言われています。「効率的」の実態は、実はターゲットの6%程度のアクティブ層だけを見た数値です。逆を言うと、その背後には90%以上の置き去りにされた「Mail Non Active層」が存在することになりますよね。これほどもったいない話はありません。

:「効率的」という部分に意識が向きがちですが、9割以上もの人たちが情報に触れていないというのは無視することができない事実ですね。

椎名さま:効率だけでなく売上最大化も考えれば、マスなども含めたメディアの最適ミックスをしていく必要があります。デジタルマーケティングに触れなかった9割の人たちを放っておくのではなく、紙メディアで拾っていくべきでしょう。

椎名さま2つ目は、「デジタルメディアとの連携を強化し、全体としての効果を発揮する」です。

アメリカの米国ダイレクトマーケティング協会(DMA)の調査によると、DMの役割として大きな割合を占めているのは「Direct Selling」と並んで「Drive to Web」です。
DMからWebへの誘導は以前からBtoB企業中心に行われていましたが、スマホの普及に応じてQRコードを使ったスマホ誘導事案が増えたり、「DM+eメール」のアプローチが一般化してきたりしています。
低コストで機能的に配信できるeメールを「事前告知」「事後リマインド」として配信し、高コストですが情報量が多くコンバージョン力の高いDMと組み合わせて効果を上げるという具合です。

また「DM+SNS」という組み合わせで拡散を狙う事例も増えてきました。
広告キャンペーンで重要性が増すSNSに、コアターゲットに直接キャンペーンやオファーを届けられるDMが組み合わさることで、高レスポンス率が期待できるでしょう。

3つ目は、「データ活用を進めDMメディア自体を進化させる」です。
購買データとネットからの行動データ取得が可能になり、DMメディアの課題だった「ターゲティング」や「アプローチのタイミング」がより精密になりました。ターゲット一人ひとりのセンスや行動パターンに対応した提案や表現、つまり「パーソナライズ化」も可能になっています。

:デジタルとアナログを分断してマーケティング施策を考えるのではなく、あくまでも主役は顧客であることを忘れてはいけないですね。デジタルとアナログが融合することで、DMメディアとしての新たな価値が生まれる気がします。

椎名さま:DMとデジタルメディアとの連携展開が重要なトレンドと言えるでしょう。メールなどで最初にアプローチしたターゲットをDMでフォローしたり、DMからWebサイトに誘導したりと、DM単独、Web単独ではなく、両者を組み合わせた施策の方が実際のパフォーマンスや評価は高くなります。
また、今後はデータ活用の進展や費用対効果の面から、トレンドは「量より質」へシフトしていくでしょう。eメールのように短い情報は、ニーズのある人にとっては効果的ですが、何が課題かを自覚していない人には、説得して興味を惹かせる必要があります。つまり、カタログやDMで丁寧に説明しインスパイアしていくということですね。これはデジタルメディアにはないことです。メディアの特性をしっかり理解して組み合わせていくことが大切でしょう。

:「適切な人に、適切なタイミングで、適切な情報を届ける」。これを成し得る手段として、デジタルメディアとアナログメディア双方の特性を生かした戦略を考えていくことが大切ですね。本日はありがとうございました!

椎名 昌彦 様
一般社団法人日本ダイレクトメール協会 専務理事
1979年電通入社。ダイレクトマーケティング専門代理店、電通ワンダーマンの創設メンバーとして出向。広範な業種にわたる企業で顧客獲得、CRM領域の企画・実施作業を行う。2005に電通に復帰し、通販、ダイレクトビジネス全般の業務を担当。2011年より現職。企画監修『先頭集団のダイレクトマーケティング』(朝日新聞出版、2011)他、教育・執筆活動多数。全日本DM大賞最終審査委員。

HintClip編集担当:
共同印刷株式会社 プロモーションメディア事業部 営業戦略G
神香澄(じんかすみ)

2008年入社。同事業部の担当営業、新規開拓営業を経て、現在HintClip編集長を務める。

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