「寄付」ときいて、何を想像しますか。日本では自然災害時に被災地を支援したり、遠い国の貧しい子供たちに送金したりと、特別なものになりがちですが、ここアメリカでは違います。「ファンドレイジング」あるいは「ドネーション」という言葉で、ごく身近で、ひんぱんにさまざまな資金集め活動が行われています。だいたい5歳~6歳ごろから、子供たちは自分たちが通う学校のPTAや課外活動、修学旅行などの資金集めとしてお金を集めるプロセスを経験し、企業活動やプロモーションの仕組みを学んでいます。

アメリカ人が幼いころからごく当たり前のものとして認識している「寄付金」。ここでは寄付という動機づけをうまく利用し、地域コミュニティとの関係性を強化しながら、企業プロモーションに役立てている例をご紹介します。

1.「寄付金」という大義名分で買ってもらう!

アメリカには、日本の年賀状と同じように、12月に親族や友人に送る「ホリデーカード※」という風習があります。そのために家族写真をわざわざプロに撮影してもらうという人も少なくありません。作るのは簡単。まず、カメラマンに近所などで撮影してもらって、後日画像データを入手。その後、別のオンラインサービスでカードにします。一例をあげると、Minted.comというサービスは、写真撮影からカード製作までまとめてできて100~200ドル程度。誰もが気軽に利用できる価格帯です。
※一昔前には「クリスマスカード」という呼称が一般的でしたが、昨今では、キリスト教以外の宗教の多様性受容の波を受けて、広く「ホリデーカード」と呼ばれています。

ここで悩むのが、カメラマン選び。プロからセミプロ、副業でのバイト等、探せば星の数ほどあります。消費者側は選択肢がいろいろあってよいのですが、カメラマンからすると、競争が激しいなか、どうプロモーションしていけばいいか、と頭を悩ませることになります。よくあるケースは、地元の学校とタッグを組むという戦略です。しかし、単純に学校側から紹介・斡旋してもらうだけでは、実際に申し込みにつなげるには押しが弱いのが難点です。

そこで、この「ドネーション・寄付・資金集め」という動機づけがうまく活用されています。「あなたの子供が通う学校(PTAや課外活動)への寄付金プログラムの紹介」という切り口から、写真撮影サービスを親にアピールします。なぜなら、学校と親との関係において、金額の大小はさておき、「寄付」は、双方の共通目的を達成するための潤滑油として機能しているからです。

2.「寄付金」を活用すると、四方よし

「さぁ、ホリデーカードの時期だから写真をとりませんか、私が撮影します」という自社サービスの単なるアピールではなく、「学校の年末寄付金キャンペーンの一環として写真サービスを利用しませんか?同時に、自分たちの学校のプログラムを充実させませんか?」というメッセージに置き換えて、購入を促します。

この仕組みのよいところは、需要と供給のWIN-WINどころか、4WINS(カメラマン、保護者、学校、そして子供)の関係ができるということ。学校側も寄付金が入るため、プロモーションを積極的に行うほか、保護者側も趣旨を理解したうえで、子供の学校のためにもなるプログラムを自ら進んで選択しようとします。事業者であるカメラマンも社会貢献につながるポジティブなイメージを保ちつつ、まとまった受注が入ります。さらに、子供にもメリットがあり、寄付金やお金の流れ、プロモーションというビジネスの仕組みなどを学ぶ機会にもなります。

寄付金を活用したカメラマンのPRテクニックは、乱立する業態やビジネスにおいて、ひとつ抜きん出て、顧客に選んでもらい、気持ちよくお金を払ってもらうための好事例といえるでしょう。

3.寄付マッチングアプリを活用して、プロモーション

企業でも、寄付金を関連させた取り組みは一般的に行われています。わかりやすいのがアマゾン等のeコマース(ネット小売)企業やRainbow Grocery(レインボーグローセリー)等の自然派スーパーマーケットの地域団体寄付プログラムです。NPOや学校などが受益者として登録すると、企業から特定のWEBリンクが発行されます。そのリンクから、通常の買い物と同じように商品を買うと、2%から最大25%(だいたい3-8%の間が多い)の金額が、受益団体に寄付される仕組みになっています。せっかく日用品を購入するなら、自分たちの学校や寄付したい団体にお金を落としたい、というわけです。

さらに、企業が実施する寄付プログラムや受益団体をプラットフォーム上にまとめて、マッチングするアプリもあります。公立学校のPTAなども多数登録している、Benefit(https://www.benefit-mobile.com/press)というデジタル・ギフトカードのプラットフォームです。このサービスには、アマゾンやホールフーズ、ウォルマート、 ターゲット(日用品スーパー)などをはじめ、アディダス(衣料品など)やレストランチェーン、サウスウエスト航空など、ありとあらゆるモノやサービスが登録されています。何か購入するなら、登録事業者で買って売上一部を寄付にしよう、というインセンティブが働くこのアプリ。 このようなマッチングアプリに参加していることも、一種の企業プロモーションになります。

4.アイスクリーム屋さんと学校寄付金プログラムの関係性とは?

MVIMG_20171214_113942-(1).jpg

アメリカ西海岸・サンフランシスコで、最近の話題のアイスクリーム屋さんも寄付金をうまく利用している事例のひとつです。SALT &STRAW(ソルト&ストロー)という名のこのショップ。ポートランドとロサンゼルスにも店舗があります。行列必須のアイスクリーム屋さんは他にもいくつかありますが、このお店は、学校への寄付金プログラムを利用したプロモーションで話題を呼びました。

MVIMG_20171214_114430.jpg

サンフランシスコの冬は日本と比べると、比較的温暖で過ごしやすいのですが、やはり冬は寒さが身にしみます。夏のオンシーズンと比べると、「アイスを食べたい」欲求も下がりぎみ。そんなオフシーズン中の施策として、学校のアート&サイエンス(美術と科学)プログラムとタイアップしたプロモーションを展開しています。

たとえば、ある学校の小学4年生の子どもたちが、味も見た目も新しい製品をデザイン、開発し、実際に店舗で期間限定販売するといったプログラムが組まれたりします。さらに、新製品の売上の大部分は当該学校への寄付金へ充当。今いるお客さんと未来のお客さん(小学生とその親などを含めた家族)に対して、CSRの一環として実践的なビジネス体験を提供するほか、来店を促す動機づけとなり、寄付にもつながるという意味では、これもまたWIN-WIN-WIN-WINの好事例といえるのではないでしょうか。

アメリカの寄付総額は年間で36.2兆円(※総務省統計局、国税庁、AAFRC Giving USA2009 NCVO UK Voluntary Sector Aimanac 2008より)。こうして寄付文化が一般の人びとのなかでもごく普通に根づいているのは、寄付金控除で優遇される税金制度によるところが大きな理由です。また、奉仕の精神などを説く宗教が根本にあるからだ、という説もあります。日本とは制度や環境が異なるため、寄付金そのものはなじみがないかもしれません。しかし、今回紹介したような地域の学校とのつながり強化、一歩進んだ動機づけ、WIN-WIN-WIN-WINを目指すプロモーションの考え方や試みは、今後さらに人口減少や社会課題の複雑化により、地域の支えあいが必要とされる日本においても活用の余地があるのではないでしょうか。

おすすめ資料