収集したデータをもとに、企業にとって見込みの高い顧客に対し最適のマーケティングを行う……そして営業効果を高める……「ABM」(アカウントベースドマーケティング)は、そんな理想の実現を助けてくれます。多くの企業がその導入に興味を示しており、AI(人工知能)の普及でその効果はさらに高まるとも予想されています。そこで今回は、ABMの現状と今後どのような進化を遂げるかについて見てみましょう。

ABMとは

ABMとは、特定の顧客や企業をターゲットとして戦略を立て、マーケティング活動を行う手法のこと。ターゲットを絞ったうえで、その顧客や企業の仕組みを学んだり、組織のなかでキーパーソンは誰なのかといった情報を収集したりします。そうしたことを通じて、マーケティングの効率を高めていこうという考え方です。そしてここで役立つのが、デジタルマーケティングで収集したデータなのです。

例えば、デジタルマーケティングの一環として配信したコンテンツについて、どのようなコンテンツに誰がアクセスしているかといったデータを集めます。その結果に基づき、今、その企業内の誰をターゲットにするべきかという判断を、より正確に行うことができるようになります。また、こうした判断の内容をマーケティング部門と営業部門とでシェアすることにより、より効果の高いセールスを最短距離で実施することができ、マーケティングとセールスといった異なる役割を持つ2部署のギャップを埋める手伝いにもなるのです。

ツールの台頭で注目を集める

実はABMは、マーケティングの方法としては特に新しいものではありません。特定の企業のなかで誰がキーパーソンとなっているかを探り、その人物の嗜好や人脈などを把握してアプローチするという手法は昔からとられてきました。例えば、取引の可能性がある、あるいは取引額を増やしたい企業のキーパーソンに対し接待などを通じてアプローチを行うというパターンです。

では、なぜ今ABMが注目されるようになったのでしょうか。その背景には、「テクノロジーの進化」があります。すなわち、「MA」(マーケティング・オートメーション)や「SFA」(営業支援)といったマーケティング支援ツールの台頭です。こうしたツールによって大量のデータを一元管理しやすくなったことが、ABMが脚光を浴びるようになった大きな要因といわれています。データの分析や情報共有が格段に容易になり、ABMの環境が整ってきたのです。

ABMとMAの違い

では、マーケティング支援ツールのMAとABMとの違いはどこにあるのでしょうか。MAも顧客を獲得するためのものであり、一見両者は同じような発想に基づいているように見えますが、実際は働きかける対象が異なります。

MAの対象となるのは、リードすなわち見込み客です。対象となるペルソナ一人ひとりに注目し、収集したデータを基に、リードジェネレーション(見込み客の獲得)、リードナーチャリング(見込み客の育成)、リードクオリフィケーション(見込み客の選別)を自動で行います。

一方、ABMの対象は特定の顧客や企業です。ABMにおいても、最終的に1人のキーパーソンにアプローチすることで商談の成立を目指すことはありますが、出発点は1人のペルソナではありません。最初に見るのは組織全体です。まずは特定の組織に着目し、そのなかの意思決定者や組織の抱えている課題を探し出していくのです。

ABMの実践方法

ABMの具体的なアプローチをもう少し詳しく見ていくと、次のようになります。

まずは、収集したデータを基にターゲットとする企業を選び出します。企業規模や業種などの基本的な情報のほかに、大口の取引が見込めるか、リピーターになる可能性は高いかといった点を考慮したうえで、どの企業にアプローチしていくかの優先順位をつけていきます。

次はキーパーソンの特定です。アプローチすべき企業を特定したら、まずはその組織の構造を把握し、どの人物が決定権を持っているかを探ります。その人物とのコンタクトポイントがすでに社内にあれば、それを利用します。キーパーソンを特定したら、その人物が属する組織の課題を解決するコンテンツやメッセージを用意し、それらを届ける最適なチャネル(Eメール、Web、紙媒体など)を選択。実際にそれらを届ける施策(キャンペーン)を実施します。その後、キャンペーンの測定を行い、改善を行っていきます。

ABMを導入する意味

ABMを導入しなくとも、キーパーソンへのアプローチなら日常的に行っている……という企業も多いでしょう。そのような場合でもあえてABMを導入するメリットはどこにあるのでしょうか? 

まずは、「客観性」です。ABMでは、収集したデータの分析結果に基づき、対象企業内の誰をターゲットにするべきかという判断をより客観的に行うことができます。すなわち、これまで営業パーソンの“勘”や口コミ情報などに頼っていた判断に対して、さらに客観的な裏付けを加えられるということです。また、冒頭の「ABMとは」で述べたように、そうした判断の内容をマーケティング部門と営業部門とでシェアすることで、2部署のギャップを埋めることが可能になってきます。また、ABMはキャンペーンを顧客データに基づいてプログラムできるため、関心を持ってもらえる可能性がより高くなります。

また、MAではなくABMを実施するメリットはどこにあるのでしょうか?

先ほどご説明したように、MAは一人ひとりのペルソナを対象とするものです。しかし、そうしたペルソナにフォーカスするのではなく企業全体の特徴や仕組みに注目したほうが、成果につながりやすいこともあります。

例えば、1社から得られる売上について考えてみましょう。「売上の8割は2割の上位顧客によって生み出される」というパレートの法則が示すように、ビジネスでは大口顧客との取引が成立するか否かで売上が左右されます。したがって、平均顧客単価の100倍の売上をもたらす可能性のある企業であれば、通常のリソースの何倍かかるとしても、トライする価値があるということになります。すなわち、そうしたポテンシャルの大きい企業を選定してアプローチしたほうが、リソースの無駄遣いを防げる場合もあるのです。また、ターゲットを大きな可能性を秘めたいくつかの企業に絞ることで、キャンペーンの効果を分析しやすくなり、精度の高いマーケティング施策を行うことが可能になってきます。

ABM導入企業は8割超え!

では、実際にどの程度の企業がABMに注目しているのでしょうか。毎年B2B企業のABM導入状況を調査しているFlipMyFunnelが発表した「2017State of Account-Based Marketing(ABM) Survey(2017年度ABM現状調査)」を見てみましょう。

調査によるとABMを導入しているB2B 企業の数は急激に増加の傾向にあり、調査対象となったB2B企業の81%がABMを導入しています。前回(2016年)が49%だったことを考えると、ABMが2017年の間に大幅な成長を遂げた分野であることがわかります。また、実施されているABMのレベルもアップしているようです。「貴社のABMのレベルはどのくらいだと思いますか?」という質問に対し、「ビギナー・レベル」と答えたB2B企業は2016年には49%だったのに対し、2017年は46%と、その割合は減っています。また、同じ質問に対して、「アドバンス・レベル」と答えたB2B企業は、2016年は13%だったのに対し、2017年は30%と大幅にアップしています。

AI(人工知能)がABMに与えるインパクト

このように現在その普及が進んでいるABMですが、「2017年度はAI(人工知能)テクノロジーの進化により、その成長がさらに加速するのではないか」と、B2Bマーケティング支援を行うDemandBase社のCEO、Peter Isaacson氏は予想を立てていました。そのとおりに、2017年には米国のクラウドコンピューティング企業がAIで強化されたABMソリューションを発表するなど、大きな動きがありました。

データがキーとなるABMの進化には、そのデータを収集するためのマーケティングテクノロジーの進化が大きく関係してきます。また消費者がマスマーケティングよりも、個人に合わせてパーソナライズされたマーケティングに対して関心が高いという事実も重要なポイントです。こうした状況のなかIsaacson氏は、「AIを活用することで顧客動向をより的確に予測することができるようになり、パーソナライゼーションのレベルが高まる。そのことにより、今後のABMがより効果の高いものに進化していくのではないか」という考えを示しています。AIによってターゲットアカウントの購入ニーズはもちろん、購入決定に踏み切れない問題点、求めているものは何かといった点をより正確に把握できるようになれば、ABMが生み出す収益はより高くなっていくはずです。

まとめ

マーケティング業界は、目覚ましい勢いで日々変化を遂げています。新たなマーケティング手法の誕生はもちろん、顧客との関係づくりのプロセスの変化や、顧客へのアプローチ方法の変化など、マーケターとしてはさまざまな角度からマーケティングトレンドをチェックしていくことが大切になります。現在取り組んでいるマーケティングに満足せず、新しいテクノロジーやマーケティング戦略を意欲的に組み入れていくことが、これからのマーケティングで勝ち進んでいくための重要なポイントとなっていくでしょう。

2018年5月更新

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